藍星

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もしかすると、これが顔を合わせる最後の時だったらと、感じる時がある。
虫の知らせか、ただのふとした感覚か、曖昧なものも、確信めいたものも混在している。

確信めいたもの。
それが最もあるのは、相手が私から離れる時ではなく、私が相手から離れようととする時だ。
それはもはや確信とは言わないのかもしれない。自分の意志が、実現することを知っているというのかもしれない。



ねえ・・いなくなったりしないよね?


えっ?と、
不安そうな顔を向けてきた彼女を見る。
泣き出しそうな表情とは言わないが、その手前のような、すがるような目で私を見つめていた。

どうしたの?いきなり。
私は言葉の意味がわからず、なだめながら問い返した。 


だって、いなくなっちゃいそうな気がしたんだもん。


大丈夫だよ。とは、何故か言えなかった。
そのはっきりとした理由が、その時の私の中にあったわけではないのに。

ただ、大丈夫とは言えないという漠然とした気持ちが私の心の中にあった。
そういうのに名があるとするなら、予感とでも言うのかもしれない。


もし私がいなくなっても、あなたなら大丈夫だよ。もう立派にいろいろ覚えたし、こなせるようになったじゃない。
むしろ私はそろそろお役御免すべきかなって思うほどだよ。
励ましと、ほんの少しの笑い要素を含めて言ったつもりだったが、彼女は笑わなかった。

むしろ、泣き出す一歩手前の顔から、泣き顔になっててしまった。


そんなこと言わないでよっ!


あっ、ごめん。だ・・大丈夫だよ!私は、そんなにヤワじゃないから!だから、ちゃんといるから、落ち着いて。
その言葉を言いながら、申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。
泣かせてしまったからではない。

大丈夫、ちゃんといる。
これは嘘だという、
漠然とした確信があった。



––・・・しっ・・きて・・起きて!––

彼女の必死の呼びかけに、私は目を覚ました。

しかし、目を覚ましたものの、
起き上がれなかった。
私の体は、鉛になってしまったかのように重く、遅れて鈍い痛みがジンジンと広がってきた。


良かったぁ!!

抱きつかれて、私の胸にすがりついて泣いている彼女を見ても、私はまだ状況がのみこめなかった。


そっか・・私、生きてるんだ。
漠然とそう感じた後、彼女は私の手当てをしながら


この作業は危険を伴うものだって、わかっているけど・・でも、だからって最初から生きるのを諦めるような気持ちでいるのは間違っているよ!
最初から、いなくなる前提で私と距離を置こうとしたり、当たり障りのないことしか言わないでいられると・・
本当に突然別れるより、悲しくなるよ。
だから・・別れの時が来る前に、
さよならって言う前に、もっと生きてる心を大切にしてよ。
いなくなったら、嫌だよ・・。


生きてる心を大切にする。
それは、心と命を削ることが当たり前だと思っていた私にとって、
さよならの言葉より、
重くて強くて、

あたたかい言葉だった。



8/20/2024, 10:48:19 AM