「これをあなたに渡しておきましょう」
そう言って彼が差し出したものは、手のひらに収まるくらいの、小さな鍵だった。けれど不思議なことに、その鍵には一切の溝が掘られていない。ただの平べったく細い金属の板が、鍵の持ち手の部分から突き出しているだけだ。
「……これはどこの扉の鍵なんですか?」
これじゃあピッキングし放題。
防犯性もあったものじゃない。
目の前の彼はニコリと笑い、こちらを指さす。
「これはあなたの未来への鍵です」
「?」
首を傾げる僕に構わず彼は続ける。
「これから先、あなたの人生にはたくさんのことが起こるでしょう。この鍵に深く溝がつくような、様々なことが。それを良いこととするか悪いことと捉えるかはあなた次第ですが」
僕は黙って彼の話を聞いていた。
僕の手のひらにある鍵が、だんだんと熱を帯びていく気がする。
「さて、あなたの鍵はどんな形になるのでしょうね?」
僕は前方に立つ彼を見据えた。手のひらにのせてあった鍵をそっと握り込む。
「きっとこの世にふたつとない僕だけの鍵を形作ってみせますよ」
僕の答えに彼は満足そうに微笑んでみせる。
「その答えが出ているあなたなら、きっと大丈夫。どうかあなたらしく進んで下さい。いつかの未来の扉の向こうで、再び会えることを楽しみにしています」
そう穏やかに告げて、いつかの未来にいるはずの彼が消え去った。
【未来への鍵】
1/10/2025, 11:08:55 PM