名勿し

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神様が舞い降りてきて、こう言った

『貴方は神を信じますか?』


この言葉を人間が放つと途端に胡散臭くなるのは
何故だろう。実は今日、駅前の大通りで如何にもな方に
そう声をかけられた。

その方はよく見積もって40代後半、
言ってしまえば中年程の人で、
駅に着いて、一緒に遊びに行く予定だったNがトイレに
行っている間に横からひょっこりと現れて、
私の腕を掴んだ。

知らない人に急に腕を掴まれたものだから、
驚いてその腕を捻り上げてしまったが、
その女性は短い悲鳴をあげると、
ガン決まりの様な目つきで私を見て

「貴方、貴方は運命を、信じますか…?」

そう聞いてきた。
だから私は持論を述べた。

「まぁ、はい。奇跡とは、違いますからね。
 運命って、実際に存在する出来事ですし…。」

するとその女性は私の腕を掴む力を強くした。
だから私は少し強めに捻った。
「やめて下さい。」
正直人にベタベタされるのは嫌いだった。

女性は私の腕を離すと
「素晴らしい…是非私達のお話を聞いてみない?」
と誘って来た。この手の話はよく聞く宗教や
カルト団体の誘いだろう。めんどくさい。断るか。

「いえ、人を待っているので」

すると女性は「ならそのご友人も一緒に」と言ってくる

「友人じゃないです。」


私はキッパリ答えた。すると女性は
「彼氏さん?」

「彼氏いません」
これが良くなかったのかな、女性はギラッと目の色を
変えて私に詰め寄る

「恋人を探しているのね!」
「いえ」
「出来るわよ。理想の彼氏さん」
「えぇ…」若干引いた。何だこのババア。

「特別に、理想の恋人とも巡り会える運命の宝石をあげる」

「え、要らないです。」
マジで要らない。何それ。胡散臭すぎ。

「これさえあれば貴方も幸せな運命に導かれる!」

ドーン!

ババアがなんか喋ってた事を言い終わる前に、
Nが私の肩にダイブして来た。

Nは私に飛びかかるとすぐにこう言った
「〇〇!ナンパ!?」

うん。相当頭が弱いらしい。
するとババアは私の袖とNの袖を掴んで
「貴方も!私と一緒に来てくださらない?
 運命とは希望、運命とは未来、
 運命とはなんちゃら神さま…!」
とか何とか言ってた。

Nは服を引っ張られたからか、
ニコニコ笑顔から一気に冷めた表情に変わって、
「何かと思えば宗教勧誘かよ!
 ごめんだけど興味ないんだよね!!」
そう言って腕を振り解いて、私の腕も解いた。

ここからN無双が始まる。
「なんしゃら神さまを信じないとどーたらこーたらで
 世界が滅びるのよ!!」
みたいな事を言い始めた。このババア相当きてんな。
対してNは

「知らねぇし興味ねぇよ!」と一蹴
ババアそろそろ疲れてくるんじゃない?
私は呑気にそんな事考えてた。
そしてなんとババアはNにも
「なんちゃら神さまを信じてこれに願いを込めれば!
 理想の彼氏!理想の旦那!理想の人生が歩めるのよ!」

そんな事言ったって無駄だっての、
Nはレズビアンなんだから。

Nは終始イライラしてたけど、その発言で
堪忍袋の尾が切れたのか、捲し立てる様に話し出した

「うるさいなぁ!私!女だけど男に興味ないし!!
 てか彼女居るし!!!
 アンタの勝手な価値観で話進めないでくれる!?
 あと!宗教とか!そーゆーの日本じゃ自由だけど!
 それは無宗教である権利も守られるって事だから!!
 押し付けるのも度が過ぎれば犯罪になるんだよ!
 分かったらさっさと〇〇離して!」

ババアから無理矢理私を引き離すと、
Nは肩で息しながら「行こ!」って手を引く。
あ、ここで言うNの彼女とは私の事だ。
私はレズビアンでもなければ、バイセクシャルでもない、
Nが別枠ってだけ。

私たちはババアを後にした。

ババアのせいで、Nは今日一日中少し不機嫌だった。
放っておいたら治って来てたけど、
さっきなんてスト缶2本目を開けてた。
どうせ飲み切らなくて私に預けるくせに。

ほら来た。

「飲めねぇ…」
じゃねぇよお前が開けたんだろ。

持ち上げてみると3分の2はある。
ふざけてんなマジ

私は酔っているであろうNに聞く。
「ねぇ、Nは神様って信じる?」

「はぁ?何で?」そりゃそうだけど、

「いや、なんか気になって」

「うぅ〜ん……」
Nは考える仕草を見せて、妙案を思いついた様に顔を向けた

「神様ってさぁ〜色んな所に居るって言うじゃん?
 だから〜まぁ〜居てもおかしくないけど、
 居ないって言われてもぉ納得できるよねぇ」

酔っ払いの言葉なのでそんなに信用できないが、
N的には神様は居ても居なくても別にいいと言う事らしい。
私も正直そっち派だ。居ても居なくてもどうでもいい。

「あ〜でも!受験は神頼みしたー!」

現金なやつだな。

まぁそんなもんか。日本人って大体そうだ。
ここぞと言う時にしかお願いしないし、
普段から神様を信じてあれこれしてる人の方が少ない。
そもそも神様ってゆー存在自体が不確かで不透明だ。
人によって解釈が異なる。

だから私は明確に神様を想像できない。
想像できない大きな存在。と言う事しか出来ない。

何より怖いのは、人は人を信じる力、依存する力を
使い、人を神さまの気分にさせてしまう。
神さまのような力を持たせてしまうと言うことだ。

だから神様が舞い降りてきて、私が奴に一言言うならば、

「居なくなってくれ」

これに尽きる。

7/27/2023, 1:34:18 PM