お題:この場所で
肌寒くなってきた秋頃。
妻の実家からの帰り道、河川敷に寄り道をした。
妻がどうしても寄りたいと言ったのだった。
「私、この場所が好きなの。」
もちろん知っていた。
ここは私にとっても思い出深い場所だ。
「そういえば、なんでこの場所で雄一さんに告白したか話したかしら。」
首を振ると、微笑みながら彼女は言った。
「落ち込んだ時とか、辛い時とかによくきたの。
気持ちのいい風が吹いて、悩み事も一緒に風に流されるようなそんな気分になるのよ。」
確かにこの場所は彼女の家からは近い。
学校終わりなどによくきたのだろう。
川の音、風の音。
この自然たちが、彼女の心を癒したのだろうか。
「そんなことをしてるうちに、いつのまにかここが落ち着ける場所、私に勇気をくれる場所になっていったの。
雄一さんに告白する時も勇気をもらったのよ。」
そう言うと、彼女は私の前に何かを差し出した。
……赤いマフラーだった。
手編みで縫われたそれは、私が仕事をしているときに編んだのだろう。
私は無言で受けとる。
……流石に手編みの赤いマフラーは仕事にはつけていけないな。
そう思った。
「休日、出かける時に巻いてみる。
ありがとう。」
私の飾り気のない言葉でも、彼女は嬉しそうだった。
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2/11/2023, 4:22:57 PM