もも

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『特別な夜』

誕生日の夜だけは特別な夜だった。
俺の家は家系的に全員医者になるのが定められていて、兄の二人の出来がいまいちだとわかれば、必然的に俺も医者になって将来病院を継ぐものだと勝手に決めつけられて、勉強、勉強、勉強の毎日。
でも俺の頭は家族が期待する以上には良くなくて、結局兄よりも出来ないとわかれば期待は一気に逆転した。
期待されなくなれば何もしては貰えなくて、家政婦の人が定期的に勉強をしているか見に来るのに耐えながらただひたすらに何かを詰め込むだけ。
楽しそうにあそこに行ったんだ、あんな物を見たんだ。そう語る兄達は自慢話を毎回のように話にきて、買ったばかりのおもちゃを見せに来る以外は誰も俺には話しかけて来ないのに、話して欲しいなんて思ってた俺は必死に足掻いて頑張って結局なんにも与えられなかった。

ただ唯一誕生日の夜だけは見かねた姉がこっそりとケーキを買ってくれて「ナイショだよ!」って部屋の机の上に置いていってくれたんだ。
見つかれば姉さんだって怒られるのに、わざわざ俺のためにお金を溜めてくれて買ってくれたショートケーキは、どんなご馳走よりも美味しくて泣きながら一人でいつもこっそりと食べてた。

今でもケーキ屋のショーケースにショートケーキが並んでると泣きそうになる。
結局医者になれたものの、心がついてけなくて休むはめになってしまったけれど、あんな風に救えるものがあるならまた元に戻りたいって思うんだ。


今日は普通の日だけど、ショートケーキ買って食べよう。
ショートケーキは特別な食べ物。
あの夜確かに俺は救われたんだから

1/21/2024, 10:23:02 AM