白糸馨月

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お題『あなたのもとへ』

 昔、幼馴染が魔王の手先によって攫われた。なんでも彼女には強大な力があるんだって。
「今まで楽しかった、ありがとう」
 と涙を浮かべながら、それでも笑おうとする彼女が軍団に引きずられるように連れて行かれたのが十年経った今でも忘れられない。

 私は今、仲間と一緒に魔王と対峙している。ようやくここまでたどり着けたんだ。
 私が見据える先は魔王じゃなくて、その後ろで鎖に巻かれている美女の姿だ。綺麗な彼女は魔王に力を吸われていてもうぐったりしている様子だった。
「よく来たな、無謀なる勇者よ」
 と言う魔王の声を無視して私は
「助けに来たよ」
 と言った。その瞬間、疲労しているはずの彼女が顔を上げる。
「いやだ、来ちゃだめだったのに」
「それでも貴方を助けに来たかったの」
 泣く彼女に私は笑いかける。
 この十年、彼女を救うためにどれだけ鍛錬を積んだだろうか。魔法の粗質がないからひたすら剣の腕を磨いた。
 女であるこの身には限界があって、それでもそれなりに戦える術を身に着けてきたつもり。
 仲間を引き連れて、ようやくここまで来れたんだ。
 全部あなたのもとへ行くために。
 私は剣を構え、魔王のもとへ走る。仲間の僧侶が速さをあげる魔法を使ってくれたから動きが早い。
 彼女を救い出すため、私は低めに構えて魔王の足を切りつけた。

1/15/2025, 11:16:57 PM