イブリ学校

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僕は生きることに疲れてしまった。

 ある日僕は、とある洞窟のダンジョンに置いてあった宝箱を見つけた。僕は仲間たちを呼ぼうか迷ったが、いつも自分の事を子供扱いする仲間たちの顔を思い出し、やめてしまった。うひひ、これで僕だけ最強装備ゲットだぜ。
そんなくだらない思いで僕はこの宝箱を開けてしまった。

 「いや~宝箱見つけたけど何も入ってなかった」
あの後僕は宝箱を開けたが中には何も入っておらず、結局僕は仲間のもとにふらふらと帰ってきた。そんな僕を見て、賢く口うるさいモンク、怒ると怖い魔法使い、いつも優しい僧侶は全員呆れ顔を浮かべてそれぞれ叱ってきた。僧侶は嫌がる僕を座らせ診察魔法を唱えると不安そうな顔をした。
「この子、呪われてる」
彼女のひと言に、みんなの顔は険しくなった。急いで僕は教会までみんなに担ぎ込まれた。しかし僕の呪いは解除することができず理由を聞くと、どうやら僕には自分の状態をすべて元の状態に戻す呪いがかかっているようで、呪いを解いても呪いのある状態に戻ってしまうからだった。

 僕は、嬉しかった。この呪いを活かせば僕は実質不死身で、どんなモンスターにも勝つことができる、そう思ったからだった。しかし仲間たちは皆悲しそうな顔をしていた。僕にはその理由がわからなかった。

 それからの僕たちは敵なしだった。向かってくるパーティーもモンスターもすべて僕の不死身の体で特攻を仕掛け、注意の逸れた所を魔法使いとモンクが一掃した。勝利を収めるたびに、僕はボロボロになり、仲間たちの心配そうな表情は深く顔に刻まれていった。

 そんなことが続いたある日、モンクが死んだ。病死だった。モンクは最後に一言「もう戦うな」と僕に伝えてきた。モンクが死ぬ瞬間に立ち会った仲間の二人はベッドの脇でずっと泣いていた。その横で僕は、自分の異常に気づき部屋を出た。それは、父親のような存在であったモンクの死に僕は涙の一つも流せなかったからだった。それどころか悲しみすら湧き上がってこなかった。その原因はすぐに思い当たった。

『元の状態に戻す呪いが前より強化されて感情すらも元に戻してしまっている。』

心拍数が一瞬上がったがすぐに抑制されてしまった。やはりそうだ。

 しばらくして、僧侶が冒険者を引退する事を伝えてきた。理由を聞くと僕のボロボロになる姿に耐えられなくなってしまった、モンクの死を見て死ぬまでにやりたいことができただかららしい。僕は何も感じず了解を伝え彼女を見送った。感情を失ってから精神的なストレスで僕は酒をよく飲むようになった。感情の発露がストレスを減らしていたという事がよくわかった。いくら飲んでもすぐに元の状態に戻され、その度に僕は酒の量を増やした。魔法使いは酒の量が増える度に僕を叱り、僕はその度彼女と喧嘩をした。彼女は僕を見て悲しそうな顔で泣いていた。

『そんなに辛いなら、なんで僕に会いに来たりするんだ。あの僧侶のように何処かへ行ってしまえばいいのに。』

僕はそう思った。

 魔法使いが寿命を迎えた。ベッドの脇で僕は一人シワシワになってしまった彼女の手を、あの頃と同じ自分の手で握った。あれから呪いが強まり自分の体の成長は止まってしまっていた。死に際、彼女は「体に気をつけて、お酒は飲み過ぎちゃだめだよ」そう言った。「心配しなくても僕はもう不死身だ」僕はそう言った。彼女は悲しそうに笑った。

 魔法使いの墓の前で僕は彼女のことを思い出していた。最後まで彼女は僕の心配をしていた。思えば、僧侶もモンクも最後まで僕の心配をしていた。何かが胸に込み上がりそうになりすぐに抑制された。なぜあんなにみんな僕を心配していたのか、僕が呪いを受けたときなぜあんなに悲しそうな顔をしたのか、今の僕なら分かっていた。

 その時、僕は誰かに似た声で後ろから呼ばれた。回想を邪魔され不愉快になりながら振り返ると、そこにはヨボヨボになった僧侶が立っていた。驚き、何も言えないでいると僧侶は「モンクに頼まれていたものです、飲んでください」と言い僕に薬瓶を渡してきた。怪しみながら僕はそれを受け取った。急過ぎないかと思い会話をしようとしたが耳が遠くて何も聞こえていないようだった。少し躊躇したが、自分が不死身なのを思い出しやけになって飲み干した。瞬間、頭に痛みが走ったかと思うと胸に何かが込み上げてきた。吐き出そうとしたが何も出ず、代わりに嗚咽と目から何かがこぼれた。
涙だった、止まらなかった。
僧侶を見ると泣いていた。
仲間との思い出が蘇った。
ともに旅をし、笑い、怒り、そして泣いた。
しかし、どんなときもお互いを思い合った。
モンクが僕に戦うなと言った理由、魔法使いが僕を心配した理由、呪いを受けたときみんなが悲しい顔をした理由は

すべて僕の成長を願ってくれていたからだ。

僕はもう限界だった。膝をつき、魔法使いの墓に頭をこすりつけ、泣き喚いた。僕はみんなの思いを無駄にしてしまった、そう思うとまた泣いた。みんなと一緒に死にたいそうつぶやきそうになったとき、僧侶が優しく僕の背中を擦ってくれた。

生きなければ、生きて成長しなくては、僕はそう思った。

 それから僕の成長を止めていた呪い、もといすべてをもとに戻す呪いは消え去り、まもなく僧侶があの世へ去った。彼女は最後、「体に気をつけて、長生きしてね」そう言った。僕は「強く生きるから心配しないで、今までありがとう」そう言った。

 そして今、僕は冒険者の指南のしごとをし、若い芽を育てている。
「先生、どこが悪いかわかりますか私の剣」
「踏み込みが甘いな、あと一歩踏み込んでから切るようにしなさい」
僕は指導をしながら、木下で汗を拭きつかの間の休息を取った。


10/8/2023, 2:58:21 PM