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少女はキラキラと目を輝かせる
男はだらだらと冷や汗をかく

「どうやってやったんですか!」
「(どうしてこうなったんだろうなァ!)」

男は趣味で奇術を学ぶ男だった。
少女は本気で魔法に憧れる少女だった。

男は遠い昔の学び舎の活動で、奇術に夢を見たが
残念な事に物覚えが悪くドジだった。
諦めきれず、かと言って弟子入りもできず。
月が真上にいる今とぼとぼ家路に向かっていた。

ところが通りがかりの公園に少女がいた。
当然今は真夜中。どうしたものか
親の影すら見えず、ない勇気を絞って声を出す
「きみ、どうしたの?」と

遊具に腰掛け、俯いていた少女に寄れば、
驚いたかの様に顔を上げて見せたが
土砂降り雨にあったかの様に泣き腫らして
「家にかえれないの…」とつぶやく。

…本来ならば、この時点で手に負えない。
連れて行くべき所があったのだろうに
男は元来悲しい表情というのが苦手だ。
故に誰かを笑顔に出来る「奇術」に夢を見た。

男は少女を笑顔にしてあげなければ。
妙な使命感に駆られてしまったのは
生来のさが、とでもいうべきか。
或いは非日常体験に少しテンパってしまったのか。

「えっと、ねえ君こっちを見て」
今から不思議な事が起きるよ、と怪しさ満点
口上も下手な男だが、少女の気は引けたらしい
そっと自身の手を握って、パッと開かせてみれば

「はい!宙に浮いた炎だよって熱ッ」
…残念な事に開いた衝撃で自身の服に燃え移ってしまう。どうやったか?男もよくわからない。
ボォっと勢いよく燃えはしないが、男はパニック状態



……さて、少女の話をしよう。

少女の祖先には魔女がいたらしく、魔法に憧れたが
残念な事に才能に溢れすぎてドジだった。
しかも加減も下手で、同じ魔女の母に叱られてばかり
今日も家を水浸しにして、居た堪れずに公園へ

ところがそんな少女に声をかける変わり者。
知らぬ大人にどうしよう、と戸惑うも
男は自分の顔見て「どうか泣かないで」と
逆に慌てふためく。

幾らかの時間ののち、男が手を突き出して
「不思議な事が起きるよ」と握った手を見せる
そうして開いて見せれば、「魔法」を使ったのだ!
しかも少女と違って制御もしてる。

少女はパッと笑顔を浮かべたが、どうやら
魔法の火が男の服に移ったそうで。
それは大変だと少女も魔法を使う。
その結果ー

「…火を消そうと、したんですけど…」

「うっかり水が出過ぎちゃった、って事だねうんハックション!」

服に移った火に慌てていたはずが、
頭上から滝の様な水が落ちてきた事に混乱し
目の前の少女が悲痛な声で「ごめんなさい!」
というから事情を訊いたのだが…

辛うじて男のバックは濡れておらず、
中に入れていたタオルで自分と少女の体を拭いた所で
もう一度少女は口を開いて

「おにいさんも魔法使えるんですね…どうやって
そんなふうに使えるんですか?」

なんてとんでもない爆弾発言を言って……うん?

「わたし全然使えなくって、きょうもお母さんに怒られちゃったんです…でも、おにいさんついさっき火の魔法つかったじゃないですか」

魔法じゃないね奇術だよ?

「まだ水を出すことくらいしか出来ないから、どうやって炎出せるか教えて欲しいんです!」

そもそも何もない所から水すら出せないが?

「きじゅつ、って火の魔法の名前なのかな…わたしまだ詳しくないので、くわしくしりたいです!どうやってやったんですか!」

どうしてこうなったんだろうなァ!

少女は目をキラキラと輝かせる。
男はだらだらと冷や汗をかく。

とりあえず、これ以上外にいると風邪を引いてしまうから。
少女を家にまで送る事を決意した。

奇跡をもう一度。なんて、俺には荷が重いんだが!




10/2/2022, 5:26:51 PM