やまめ

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声が枯れるまで、歌い続けたことがあるんです。夜の学校でした。
窓を開けると、暗闇の中にもぼんやりと何かが見えて、闇の中にも何かはあるんだな、なんてちょっと思っちゃいました。
窓枠に足をかけて、一気に身体を引き上げました。次の瞬間、教室は見えなくなって、私の前には、ただ夜がありました。
息を吸うと、秋風の味がしました。
そして、私は歌いました。遠いどこかにいる、「あなた」へ向けて歌う歌を。実のところ、私にとっての「あなた」は、そこから徒歩10分の一軒家に住んでいました。
でも、きっと聴こえない。あなたに、私は聴こえていない。聴こえたとしても、あなたはそれをただの騒ぎ声だと思うでしょう。名前も知らない誰かの。
それでも、私は歌いました。希望の歌を。愛の歌を。
届かなくたっていい。私が、あなたに向けて声を張り上げた、その事実を、私が忘れなければ。
結局何も変わらない。私の声が枯れて、あなたに「大丈夫?」と半笑いで言われたこと以外は。
また、歌います。きっと。

10/22/2023, 5:22:56 AM