四椛 睡

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 彼女が記憶喪失になったので自己紹介をする。
「初めまして」から始まる会話は、今日で何度目だろう。判らない。数えることは随分前に止めてしまった。けれど、4桁はいかないはずだ。でも、4桁に近い数字であることを否定は出来ない。それぐらい沢山、繰り返してきた。
「初めまして、私の名前は——」

 0から築き直す関係は、一度も険悪にならない。
 彼女からすれば0より前が無いので悪くなりようもないけれど、だからこれは私の問題なのだけれど、不思議と嫌ではないのだ。苦にもならない。何故かは不明だ。彼女が大好きで愛し過ぎているからかもしれない。0より前を思い出して悲しさや淋しさを煮詰めるより、0から始めて新発見した点に喜びを感じているからかもしれない。実際、彼女は全く飽きない人だ。

 0より前が無く、0より先へ行けない人。
 過去がなく、未来もない彼女。
 飽き性な私が、全く飽きられない存在。

 明日もまた「初めまして」な彼女がやってくる。
 だから、今ここにいる0のきみを強く抱き締めておく。

2/22/2024, 6:14:17 AM