NoName

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窓を開けることを口実に、名前を呼んだ。汗ばむ気温、湿った土のような夏の匂い。西陽が煩いから君の顔は見られなかった。
影さえ重ならない距離感で、同じ空気を共にした。
残像が焼き付くほど眩しい笑顔も、透き通るほど白い腕もその影は真っ黒で、それが妙に嬉しかった。
この季節は影が短いから仕方ない、なんて言い訳をしたまま、時間は切れた。
今年も影が短くなった。雨上がり生ぬるい空気を思い切り吸い込んで、もう現れることのない影を、この部屋で待っている。

4/19/2025, 10:58:10 AM