二人だけの秘密
とある日、不思議なことがあった。
仕事の上司と二人で、同じ案件を任された。
上司は少し年上の、頭の切れる先輩だ。そしてバリバリのキャリアウーマン。一方僕は、まだまだ社会人になってから日も浅い。
よく自己紹介では「晴れ男なんです」なんて、あまり意味のないことをいっては、ひとに笑われている。良くも悪くもだ。
なので、内心ちょっとびくびくしていた。
しかし、その日はあいにくの雨。
「雨になってしまいましたね」
「……そう、だね」
不思議なのは、それからだった。
車に乗って移動中は、雨。
歩きだすと、晴れ。また車に戻ると、雨。
本社に戻る途中のいまは、晴れの雨。
「なんか、変な天気ですね」
「そうね」
「……あ! 僕が晴れ男だから、ちょうど良く晴れになるのかも! ……なんちゃって」
「そっか」
先輩は、口数が少ない。でも、僕はめげないで会話する。
「先輩は、晴れと雨なら、どちらが好き、とかありますか?」
「…………」
あれ、なんか地雷踏んだか?
なんて、ちょっと焦っていたら。
「あまり、晴れになったためしがない」
「はい?」
運転しながら、先輩は応える。
「……その、……」
信号で止まり、先輩はこちらを向いた。
「たぶんわたしは、雨女なの」
「…………へ」
ちょっと顔を赤くして。
きゅっと唇をむすんで。
そんな、照れた顔で、先輩はなんでもないようなことを、重大な事実のように、言いにくそうに声を小さくして、そう呟いた。
どうしよう。可愛い。
この先輩の可愛いを、ちょっと独占してみたくなった。
「……なら、二人だけの秘密、ということにしますか?」
「うん」ではなく、コクりと頷くのが、なんともまた可愛らしい。
信号が青になるとき、外を見た。
空は曇りだった。
5/4/2024, 3:23:48 AM