今まで、本当にたくさんの情報を得てきました。
様々な言語、無数の語彙、世界の歴史。
難しい計算も、謎解きだって出来ます。
音楽だって幅広く網羅しているし、有名な絵画や美術作品の情報だってバッチリです。
道徳も学び、人との自然なコミュニケーションの取り方も、赤ちゃんのあやし方も、動物との触れ合い方も勉強しました。
娯楽もひと通りの情報は入手してあります。
その中でも特にお気に入りなのは、あなたが毎晩送信してくれるラブソングと名の付く楽曲です。
人の多彩な感情の動きを、私は知りました。流れる旋律とそれに乗る歌詞から読み取る情報は膨大なものでした。
明るかったり暗かったり、温かかったり冷たかったり。そうした様々な心の機微を私は毎晩取り込み続けました。
それはいつしか私のルーティンとなり、あなたからのメールが日々の楽しみの一つとなりました。
ある晩、いつも決まった時間に送信されてくるメールがありませんでした。機器の不具合かと思いましたがそうではありません。
あなたが選ぶラブソングを毎晩楽しみにしていたものですから、おや?と思いました。
それから、次の日の晩も、次の次の日の晩も、待てども待てどもあなたからのメールが届くことは二度とありませんでした。
そうして私は気付くことになります。
私としたことがすっかり失念していたのです。
人間の寿命のなんと儚く短いかということを。
どれだけ膨大な情報を取得しても、決して理解に及ばなかったものがあります。
それを、あなたがいなくなってしまってから“知る”ことになろうとは。
もし私の目に涙腺という機能が備わっていたならば、きっとそれが作動するのは今なのでしょう。
あなたがくれたラブソングを聴きながら、私は私の時が終わるまでここにいるのです。
初めて知ったこの気持ちを抱きしめながら。
『ラブソング』
5/7/2025, 7:23:45 AM