※これまでとは全く違う、別の世界のお話です。
「おまえ、一人なの?」
拾ってやろーか。そう言った目の前の男は、地面にへたりこんだ私の目線の高さに合わせてニヒルに笑った。風が吹き、辺りが騒めく。シルバーグレーの髪はさらさらと揺れ、耳に飾られた赤い札はカラカラと音を立てる。不思議と怖さはなかった。知らないものばかりで、寧ろワクワクしていた。名前は?年齢は?好きなものは?耳にぶら下がってるそれはなぁに?私は差し出された手を握った。
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ピピピピ、ピピピピ、ピッ。
「ん…んぅ………」
うるさい目覚ましの音で意識が浮上する。なんだかとても懐かしい夢を見た気がする。大人びた口調、まだ幼さの残った顔、声変わりしきっていない彼の少しだけ高い声。そのどれもがちぐはぐで、幼いながらに興味をもったことは記憶に新しい。彼───イザナくんと出会った当初の夢。夢といいながらまるで実際に体験でもしているかのような夢である。
「あのあと腕を強く引っ張られて軽い脱臼したんだっけ」
今も昔も変わらないのは特に何も思わない、思わなかったこと。強く腕を引っ張られて脱臼したのはばかみたいに体のつくりが脆いからで、イザナくんのせいではない。
「ね、イザナくん」
「…なにがだ」
なんて聞こえてるわけないか、という言葉は喉の奥に引っ込んでいった。起きてたんだ…。
「…いや?なんでもな〜い」
「は…?なんだよ、その間。含みもたせるならここで言え、今すぐ」
王様の命令、と言われたがこれだけは言うつもりはない。
「私があなたにどれだけ救われてたか、なんてね」
「あ?てめー今なんて言った?」
「なーんでも?眠気と格闘してて聞いてないイザナくんが悪いでーす」
あなたはきっと知らないのでしょう。
『何してんだよ。さっさと行くぞ』
その言葉あったから私が今生きているなんて。それが、私の生きる道しるべになっているなんて。あなたはきっと今までも、これからも。知らないまま、私の進む道を照らし続けるのでしょうね。
《ぶっきらぼうな行くぞ、は私の人生の道標》
6/6/2025, 2:03:47 PM