「二人だけの秘密だよ」
チェシャ猫めいた笑顔であいつは囁いた。
真っ黒な瞳が僕を飲み込もうとしている。
「ああ、気分がいいな。君の秘密をぼくだけが知ってるなんて。ぼくだけが。──あいつは知らないんだ」
じっと黙る僕を無視して、大きく手を広げたあいつが喋り続ける。
あいつにとっても僕にとっても都合が悪い秘密を、あいつは楽しんでいる。
過ちは無かったことにはできないが、僕は心底後悔していた。
「おまえ、絶対あの人に言うなよ」
悔しくて悔しくて、僕は食いしばった歯の隙間から言葉を押し出した。
念を押さずにはいられなかった。
「言わないさ。だって、せっかくの二人だけの秘密なんだから」
またチェシャ猫は笑って、強張った僕の体を抱きしめた。
背中に食い込む爪の感触を、僕は受け入れて目を閉じた。
きっと、これが罰なのだろう。
5/3/2024, 2:56:53 PM