作品47 幸せとは
「家に帰れば電気が点いている。家に帰れば迎えてくれる人がいる。家に帰れば心の底から安らぎを感じることができる。それってすごい幸せなことなんだよ。
なんて、聞き飽きた。
何度も何度も言われてきた。友人からも同級生からも先生からも大人からも。みんな口を揃えて言う。
“幸せって、家族だよ”
気色悪い。
家族が幸せの証なら、僕ん家はどうする。
帰るとき家に電気が点いているなら、親が帰ってきてるという恐怖。迎えてくれる人は、僕を痛めつける物を持っているという事実。安らぎなんて感じられるわけがない。
母は常に叫び声を上げ、父は僕と姉に暴力を振るう。兄は僕らを灰皿にする。弟たちは押し入れで震えてる。
これが、本当に幸せか?
なあ、幸せってなんだよ。分かる形で僕に教えてくれよ。僕にも感じられるようなさ。
いや、幸せなんて、きっと僕には一生無縁だ。少なくとも、あの家を離れられるようになるまでは。
もし、僕の家族の本当の事を知っても家族は幸せの証だ!なんてほざくのなら、幸せなんてほしくないと思う。そんなのいらない。
心の底から消えてしまえと願うよ。」
僕の思う幸せの形を目の前の彼に語ると、こう返って来てしまった。前に座っているのは、同い年にしては背が低くやせ細ってて、髪は無造作に切られ、服で見えないところは常に痣だらけの、痛々しい見た目をした、一人の男だ。
そんな彼が僕に伝えてくれた言葉。
なるほど。たしかにそんなの幸せじゃない。それどころか、それを家族とよべるのか?よべないに決まってる。
じゃあ、幸せってなんだろう。彼にも得られる可能性のある幸せ。
頭の中で、一つ一つ案を出していく。
食事は?それは彼の見た目からして分かる通り、得られる可能性は少なさそうだ。健康は?そもそも食事を満足に取れてないなら、到底無理だ。自由は?僕ら学生には無縁の言葉だな。即却下。互いに信じられる人間関係は?それなら、この僕が、彼に与えられる!
「わかった。訂正しよう。
僕が思う幸せの形。それは良質な人間関係だ。」
「……詳しく言ってみろ。」
「そもそも僕が幸せの形に家族をあげたのは、僕にとって家族は安定したものだからだ。
つまり、僕は安定を幸せとよんでいる。
ならば、安定したものであればそれは、幸せとよべるのではないか?
よって、僕は良質な人間関係が幸せだと思う。」
筋が通っているか否かなんて、この際関係ない。
「確かにな。だが、それも僕には無縁だ。」
「いいや。」
「無縁に決まってるだろ。」
「そんなわけない。僕がそれをあげるからね。」
少し面食らった顔をしている彼をみて、心苦しくなる。ああ本当に、自分は幸せとは無縁だと思っているのか。
前に座っているこの人に、本当の幸せを教えたい。
1/5/2025, 4:28:52 AM