不整脈

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あの夜、枕の端に落ちたひと粒が
いつまでも乾かずにいたのは
私が忘れたふりをするからだ

カーテンの隙間から
街灯がゆらゆらと部屋の壁をなでて、
薄く波打つ、過去の情景

誰かに「泣いていたの?」と
訊かれたとして
この頬の跡に言い訳は必要だろうか

夜は優しくなれない
だけど、優しすぎるから困る
涙を流せば、夜はただそれを拭わず
ただ、眺めている

涙の跡が語るのは
そのとき言えなかった「大丈夫」の代わり

私の知らないわたしが
鏡の奥で頬をなぞって
代わりに「私は大丈夫」と言う

翌朝
冷えた跡が残るその場所に
また、ファンデーションを置いて
何もなかった顔に作り直す

でもね
あなたが気づかなくてもいい
この跡は、私が生きていた証だから

7/26/2025, 11:43:02 AM