今日のテーマ
《天国と地獄》
五月晴れの日曜日。
近所の小学校からは賑やかな音楽とマイクでの放送、時折そこに歓声が加わる。
風に乗って聞こえてくるそれに様々な思い出が蘇り、懐かしさに顔が綻ぶ。
『続いては、5年生による、障害物競走です』
アナウンスから暫くして、聞き慣れた軽快な音楽が流れ出した。
運動会の競技中に使われる定番曲だ。
たしか『天国と地獄』といっただろうか。
「やっぱり障害物競走はこの曲だよね」
「今の障害物競走ってどんな感じなのかな」
「感染症予防の観点からパン食い競争とか飴探しは絶対ないだろ」
「だよね。じゃあ、今はどんな感じなんだろうね」
我が家と小学校は、近所とはいっても少し距離があって、競技内容の説明は途切れ途切れではっきりとは聞こえない。
互いにスマホをいじっていた手を止めて、思いつく競技を上げていく。
「網をくぐったりしなかった?」
「あったかも。あと、ズタ袋みたいなのに足突っ込んでピョンピョン跳ねながら進むやつとか」
「あったあった! あと跳び箱とかハードルとか」
「ハードルはあったけど、うちは跳び箱はなかったな。高校の時はスプーン運びがあったような気がする」
「スプーン運び?」
「知らない? スプーンにボール乗せて運ぶやつ」
「ああ、テレビか漫画でみたことあるかも。うちの学校ではなかったけど。あとは、たしか後ろ向きに走るのがあった」
「あるある! よろけて隣のレーンの奴とぶつかったり」
「コストかけずに笑いが取れるネタだよね」
こうして少し話すだけでも学校によって特色があるのが面白い。
そのまま話題は運動会や体育祭自体の競技内容に移り、話は尽きることなく盛り上がる。
そうして話をしながら、時折、彼女のお腹を撫でる。そこには二人の愛の結晶ともいうべき大切な命が育まれている。
「おまえが小学校に上がる頃には、どんな競技をやってるんだろうな」
「いくら何でも気が早すぎるでしょ」
「そんなことないだろ。きっとあっという間だよ」
つきあい始めてから結婚までの期間。
そして結婚してから今日までの年月。
楽しい日々はあっという間に過ぎ去ると相場が決まっている。
可愛い我が子の成長の日々もまた、きっとあっという間に過ぎ去っていくことだろう。
いつか、この子が小学校に通うようになって、今日のこの会話を懐かしく思い出したりするのだろうか。
それともこんな会話を交わしたことすら、数々の思い出に上書きされて忘れてしまうのだろうか。
天国のようだと感じる日も、地獄のように思える日も、きっと沢山経験することになるのだろう。
それを待ち遠しく思いながら、僕はあのお馴染みの『天国と地獄』を口ずさんだ。
5/27/2023, 2:35:10 PM