烏羽美空朗

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「俺、家こっちだから」

いつもとは違う帰り道、見慣れた景色に続く曲がり角の方を向いて、俺は彼女に言った。

「一緒に帰ろう」。そう話しかけられ、一人歩く俺の隣に並んできたのは同じクラスの女子。

何が目的かはわからないまま、かといって断って逃げていくこともできず、進学や就職の話など、先生と生徒の間で交わされる軽い質疑応答のような会話をしながらここまで歩いてきた。

会話中、相手は何度か俺の名前を読んできたが、俺は彼女の名前を覚えていない。
そんな、奇妙な下校もようやく終わる。

「あぁ、そうなの?」

彼女はとても驚いた様子で俺を見る。思えば、俺から彼女に話しかけたのはこれが初めてだったかもしれない。
それ程までに、彼女は一方的に俺に興味を示してきていた。何故?

首を傾げそうになりながらも、「さよなら」と別れの挨拶を告げ、彼女を置いていくように早足で歩き出した。

「えと、また明日ね!」

背後から声をかけられる。その時は何も感じることはなかったのだが、彼女から数メートル、家から一番近い横断歩道で立ち止まっている時、ふと胸元に違和感を感じた。

また、明日。

明日も、ある。待ってくれている。

ただ一つ、何気なく言ったのであろうその言葉が反響して、大きさを増していく。

心臓の壁がキュッと縮み、血液が一瞬止まって、くらりと俯く。

目眩にも似た感覚。

明日もまた、あの子が隣にいる。

それがどんな感情なのか、言葉にして説明することは難しくて……いや、きっとできないんだと思う。

ただ一つ言えることは、その日を境に、彼女との距離は確実に縮まっていったということだけ。

さよならは言わないで

12/3/2022, 1:07:04 PM