霜月 朔(創作)

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静かなる森へ




人が人を騙し、傷付け奪い合う、
そんな醜い世の中で生きていくには、
君の魂は清らか過ぎた。

醜悪な社会から逃げ出し、
独りきりで生きていた君に、
温もりを知って欲しいと、
人の世界に連れ戻したのは、
私の身勝手だったのかも知れない。

私を見つめる君の瞳は、
余りに澄み渡り、美しくて。
私に微笑みかける君の笑顔は、
余りに儚げで、優しくて。
私はそれを護りたいと思った。

しかし。人間の心は、
余りに暴力的で、残酷で、
何処か異端な君や私を、
排除しようと、
憎しみの刀で斬り付けた。

心無い人間の、誹謗の刃は、
君や私の上に、
雨霰のように降り注いだ。
その、嵐のような激しさに、
君の心に、闇が巣食った。

これ以上。
ここにいたら、
君は壊れてしまう。
君を護れなくて、すまない。と、
私は君の手をとり、
何度も謝罪を繰り返す。

木は、草は、花は。
私達を、責めたり貶めたりしない。
だから、森に行こう。
静かなる森へ。
他の人間には辿り着けない、
二人だけの、森へ。

深い深い、森の中。
私は君にそっと寄り添う。
君は私にそっと口付けてくれた。
二人を見守るのは森の木々だけ。
それで…十分だ。

さあ。二人で眠ろう。
静かなる森に抱かれ、
木々に見守られて。

おやすみ。
…愛しい君。

5/11/2025, 8:33:44 AM