一騎打ちだ、と思った。
一つ前のターンで、自分の手札を指定して見た彼女との。
自分の手元にある“犯人”のカードを、
彼女は表情を崩さずに見ていた。
今の俺に尽くす手はない。残り一枚となった手札では、ただ自分のターンが来るまで手をこまねいて待つしかなかった。ひとり、またひとりとカードを場に出していく。一人が探偵を出して、迷った末に俺ではない人を指差して犯人だと宣言する。違うと言われて盛り上がる人々の中、犯人を探すリアクションを適当にしながら彼女を盗み見る。
その時ばちりと彼女と目が合って、俺だけに見えるような目元だけの笑みを返された、気がした。
その間もターンは過ぎる。“アリバイ”のカード。運悪く誰もカードを交換する手札を出さない。また一人カードを出す。一人と指定してカードを交換する。俺は選ばれない。
心臓が鳴る。彼女の手番が近づく。
彼女は、決まっていたかのように
持ち札の左側のカードを場に出した。
「犯人が勝つに1票」
テーブルに置かれる、“たくらみ”のカード。
取り繕うのも忘れて彼女の目を見れば、
楽しそうな彼女と今度は確実に目が合う。
それから数ターン。
最後の探偵も回避した俺に、自分のターンが回る。
「__俺の勝ち」
緊張なんて無かったかのように、一応カッコつけて犯人のカードを場に出す。予想通り周りの人間がどよめいて、褒め言葉だのブーイングだのが飛び交いまくる。ハイハイと適当にいなして、彼女の顔を見る。しれっと一緒に勝利している彼女も、気づいた人間からワイワイと何かを言われている。
俺の視線に気づいた彼女が、ニヤっと口角をあげて
もう一つの、“出さなかった手札”をぺらりと返す。
そこにあったのは“いぬ”だった。
手札を全員へ見せる、公開処刑のようなカード。
つまり、彼女は勝てたのだ。
俺を犯人だと当てて、皆が勝つルートがあったはず。
俺が勝つ側にノったのではない。選んだのだ。
皆じゃなくて、俺と一緒に勝つルートを。
素知らぬ顔をしてカードをシャッフルする彼女を見つめる。
ゲームの勝ち負けなんて目じゃなかった。俺が犯人だったのに、俺の中じゃ彼女の勝ちでしかない。無謀に挑戦した一騎打ちで、まんまと踊らされたのだ。犯人は踊る。お手本のようなタイトル回収をする彼女の手によって、再び手札は配られる。次に踊るのは、彼女か、俺か。
『勝ち負けなんて』 白米おこめ
「犯人は踊る」というカードゲームを題材にしています。
分かりやすくて楽しいゲームです。
5/31/2025, 12:28:49 PM