「真昼の夢」
気付けば大きな赤紫のダリアと向かい合っていた。
針金でも入っているかのように真っ直ぐ頭を伸ばして僕を見つめている。
畳の部屋とは縁がないほど豪奢でかしましいはずなのに、部屋の静謐さを壊さないよう身動き一つしないその様子はどこか気品と並々ならぬ覚悟が見える。
僕はいつもその様子に気後れしていた。その大きな華で僕を包んでほしかった。甘い香りで癒してほしかった。
けれどたった一人で空気を繋ぎ止め華を添える彼女にはそんな余裕はなかったのだろう。
今なら分かる。
きっと彼女からは微かな愛情は感じられていたはずだ。だから僕はここに残ったのだ。
竹林を越えて風が吹く。
ちりんと風鈴が鳴り、静寂が沁み渡る。
ダリアを支えるようにして菊を刺す。
久しぶりに母の夢を見た。
狭いワンルームアパートは涼やかな風とは縁遠く、サウナのように暑い。
母親譲りの金髪が夕陽に透けてきらりと光っているけれど、それよりも頬を流れる涙がほろりと輝き落ちた。
滅多にない実家からの知らせが訃報になってしまう前に帰ればよかった。
こっちが白昼夢ならよかったのに。
ダリアを思い出しながらまた一つ涙がこぼれた。
7/18/2025, 4:52:33 AM