沈溺 つろ (シズレ)

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11月29日。7時54分。

「はぁ…マジで学校行きたくない…最近寒すぎて
死ぬんだけど。てか、スカートの下にジャージ履いたらダメとかいう校則ほんと意味わかんないって…」

ソファの上でSNSを見ていると、出発時間の8時に
なりそうだった。スマホから充電コードを抜き、
立ち上がる。

玄関へ向かいローファーを履き、
横を見る。写真の中に写っているお母さんに
「行ってくるね」と声をかけ、ドアを開けた。

(寒…もう冬じゃん…)
バスを待っている間にネットニュースを見ていた。
(うわぁ…朝から人身事故か…なんかこういうの考えるだけで鳥肌経つんだよなあ…ん…?なにこれ?)

「木枯らし警報を導入」と書いてある文字が表示されていた。スマホの画面をタップする。

「気象庁から木枯らし警報を導入させるということ。
内容としては過去の出来事を捨てる。
目的としては過去の出来事を捨てることにより、
心理的ストレスを軽減させるためである」

(え、マジでなにこれ?変なの…うちの高校の校則くらい変じゃん。まあいいや、あんまり気にしないでおこう…まだ今日恋みくじ引いてないから引こ…)と
考えているとバスが来た。

足が寒すぎるあまり少しふらついた。
「あっ、やばっ、」急いで定期券を出し、機械へかざす。

バスから出てるとまた寒い空気に肌が触れる。
「早歩きで行こ…うあっ!?」
「あははっ!(笑)夢奈(ゆな)の反応おもしろっ!(笑)
「もう、!望愛(のあ)ったら驚かせないでよ!(笑)」

「ごめんって〜!…なんか夢奈顔色悪いよ?大丈夫?
なんかあった?」
「いや、なんでもない!」
「まあいいや、今朝のニュース見た?木枯らし警報ってやつ!」

「あぁ〜…見たよ。なんか過去の出来事を捨てるんでしょ?」
「そうそう!私は過去の失敗でも捨てようかな〜…
なんてね!(笑)」

「''過去の失敗''…か…」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない。てかさ、スタバの新作これだって!今度の放課後一緒に…」
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学校が終わり、帰りのバスを待っていた。

クラスメイトや先生、他クラスの人達もみんな
「木枯らし警報」について話していた。

(過去の失敗…過去なんて思い出したくないことばかりだ。でももし、もし過去の出来事を捨てるなら、

捨てるなら、
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3年前の秋。確かこの日も今日と同じくらい寒かった。私は当時中学2年生だった。
休み時間の教室にこんな声が響き渡る。

「あははっ!(笑)きっしょ!(笑)早く死ねよ!w」
周り女子達も笑っている。

''見て見ぬふりをする私''に助けを求めるような視線を向ける未月(みつき)ちゃん。

(うわ〜…可哀想…もうあと少しで12月なるのに
水かけられて、絶対寒いよね…)

私は昔から人に嫌われるのが怖かった。
もしここで未月ちゃんを庇ったら次は自分が標的に
されるんじゃないか。
色々考えすぎた結果、人のことを助けることさえ
できなくなっていた。

自称一軍女子達の中の1人、麗奈(れいな)ちゃんが
ぬいぐるみの筆箱から黒いカッターを取り出した。

「はーい!今からこいつのきったねえ顔面にメス入れてあげまーす!w整形の準備運動させてあげるね〜!w」

絶望に溢れた顔で麗奈ちゃんに向かって土下座をし、謝罪をし始めた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「なにこいつ、気持ち悪っ…みんな行こ…」

しばらくすると顔をあげた。
このとき偶然未月ちゃんと目が合ってしまった。

(気まづ…)

太陽に照らされ、綺麗な黒い瞳が輝いている。
さらさらな髪の毛。右側の三つ編みはほどけ、
左頬にはいくつか痣ができている。

未月ちゃんはふらふらしながら立ち上がり、
蹴られて少し形が歪になっている落書きだらけの
自分の席へ戻った。
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1週間後のことだ。
朝のホームルームで、担任の先生が未月ちゃんに
ついての話をしていた。

「えー、逢妻(あいづま)未月さんですが、3日前に自宅で亡くなったそうです。」

体が固まって動けなかった。
自称一軍女子達は目を合わせ、知らないふりをしていた。

(何知らないふりしてんの…?マジでやばすぎ、絶対
お前らのせいだろ…)

その日、私は未月ちゃんの夢を見た。

狭く暗い部屋。

(……ん?ここは…どこ…?)
体を起こすと、そこには黒い瞳をしている女の子がいた。

「未月…ちゃん?」
「私さ、夢奈ちゃんに助けて欲しかったんだよね」
「ごめっ、」
「でも、最初に知らないふりしてたのは夢奈ちゃんだよね?」

「ぁ………ぁ……………」
「いじめを見てる傍観者も加害者なんだよ。
でももういい、手遅れだし。
夢奈ちゃんの視線が私を殺したんだよ。」
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ、………ゆっ、夢か…」
謎の安堵感と罪悪感が私を襲う。
時計を見ると3時27分。

けれど、未月ちゃんのあの姿が忘れられない。

バラバラな長さに切られた髪の毛。
鋭い何かで切られた青白い肌。

手首には線がたくさんはいっていて、爪はボロボロ
すぎて血が出ていた。

足首は外側を向いていて、首には太いロープで締め付けられた痕がくっきりと残っていた。
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(私からの視線で…未月ちゃんは…
やばい、思い出すとくらくらしてきた…)

そうか、これが私の思い出したくない、目を背けていたかった出来事はこれなのか。

遠くから「八幡前行き」のバスが見えてきた。
足の感覚が奪われ、勝手に動く。

(……はっ、!?なんでっ、勝手に進んでっ、)

「ちょっと待っ」
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目の前が急に暗くなり始める。
頭を打ちつけたせいか眠たくなってきた。

「きゃあっ!!」
「おいっ!大丈夫か!?」
「えっ、何今の…」

嗚呼、そうか。悪い行いは自分に返ってくるのか。

※この物語はフィクションです。
※登場する人物名・地名・団体名などは実在のものとは関係ありません。
※あくまでも夢奈ちゃんと未月ちゃんが話しているのは夢奈ちゃんの夢の中です。





テーマ「木枯らし」
題名「傍観罪」(ぼうかんざい)

1/17/2026, 3:52:59 PM