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「やりたいこと」



彼が持っているただ一つの小さなカレンダーには丸がついていて、その周りには花がカラーペンでカラフルに描かれていた。その日はちょうど私の誕生日で、まだ何も言われてすらないのに口角が上がる。

彼に誕生日を祝ってもらえる程、光栄なことはないだろう。彼は普段、人には冷たいし、ただでさえ表情が動かない顔が、いっそう機能を停止した機械のように動かないから。
でも、きっとプレゼントはないのだろう。無論、もらえる年でもないのでそれは当たり前なのだが。
多分、彼がくれるのは誕生日おめでとうの言葉だろう。
それだけで私はとても幸せだから早く聴きたい。

それにしても、彼は出かけると言ったっきりもう何時間か経とうとしていた。外はもう夕方と言えるような時間帯に差し掛かっていることだろう。
もしかして何かトラブルに巻き込まれたのではないか。彼は、見ただけではどこかの会社や財閥の御人だと思ってしまうのは私もそうなので少し不安になってきた。
事故には遭っていないだろうか。それとも迷子か?いやそんなわけがない。ここは彼の故郷なのだから。

そんなふうに思い悩み、ぐるぐると部屋を歩き回っていると、ガチャリと玄関の戸が開く音がした。
私のいるリビングの扉が開かれると、彼は両手に収まっているのが不思議なくらいの花束を抱えていた。
そして、その花束を私へ押し付けるようにして渡してきた。キョトンとしている私へ、彼はこう言った。

「私の弟が寄越してきた。廃棄するのも勿体無いからとな、まぁこんな大量の花を捨てる場所もそうそう見つかるわけないと思ったので貰ってきただけだ。」

ただの照れ隠しのように聞こえてしまって、思わずニコリと笑いかけてしまった。彼は小さく、消え入るような声で「…気に入ったのなら、お前のものにすればいい」とだけ言ってすぐさま部屋に戻ってしまった。

彼の顔は後ろから見ていた私からでもわかるように耳まで真っ赤にしていた。それがとても愛らしくて、やはり私はニコリと笑ってしまう。
彼のくれた花束には、彼が作ったであろう小さな竜のぬいぐるみと、彼の求めた英雄を姿取ったぬいぐるみが。

6/10/2024, 2:07:11 PM