9時半、仕事へ向かう母を見送り、頼まれていた洗濯物を干し終わった後。
夏休みで学校もないし、部活もしてないし、友達も少ない。
私は部屋の中で暇を持て余していた。
一応午前中とはいえ、ジリジリとした暑さが
私の周りにまとわりつく。
それが汗となり、不快感がすごい。
『涼みも兼ねて図書館でも行こうかな』
本を読むのは昔から好きだ。特にファンタジー物が大好物。
現実じゃありえない事がどんどん起きて、
主人公になりきって一緒に冒険したり、まったり過ごしたり
魔法を使ったり、空を飛んだり…!
感情移入して読むのが本当に楽しい。
シャワーを浴びて水色の大きな花がプリントされた涼しげなワンピースに着替える。
近所の図書館に着くと真っ先にファンタジー物が置いてある
棚へと向かう。
ほとんど読んだものだが、分厚い本と本の間に絵本くらい薄い本があった。
『あれ?こんな本気づかなかったな。』
“ 12時の王子様 ” 作者名は書いていない。
怪しさを感じつつも興味が勝った。薄いのでその場でペラリとめくる。
“ 王子はいつも扉が開かない暗い部屋の中、ずっとお姫様を待っていた。
でもなかなかお姫様は来ない。
唯一扉が開くのは12時に1分だけだ。
王子様はその1分で一生懸命外にいるお姫様を探していた。
今日も王子様は12時を待つ。
扉の向こうにお姫様がいることを信じて…”
最後のページにはイラストが描いてある。
金髪で、細くて、黒いタキシードのようなものを着ている
10代くらいの少年が寂しそうに扉にくっついている様子が描かれていた。
『なんだ、拍子抜けした。タイトル通りだし…でも、いつかお姫様が来るといいね』
と本の中の王子様にちょっと同情した。
――その時鐘の音が聞こえてきた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン
『なに、この音、どこから?』
他の人はみんな静かに本を読んでいる。私にしか聞こえてないみたい。
キョロキョロしてる間も鐘の音が聞こえる。
どんどん大きくなり、頭が割れそうだ。
フラッと立ちくらんだ瞬間、図書館の時計が見えた。
―――――12時。
目の前が真っ暗になった。
目を閉じた訳では無い。いきなり暗い部屋のふかふかの椅子に座っている。
『なにここ、どこ?なんで?え?』
いきなりの事に混乱するが、ハッと冷静になり
目を閉じて早く暗闇に目を慣らそうとする。
恐る恐る目を開くと、絵本の中に描かれていた王子様が立っている。
その王子様は優しく、そして嬉しそうな顔で
「お姫様、やっと会えましたね!」
と言い手を差しだす。王子様の手を握り、ゆっくり立ち上がる。
「ここはどこなの?」と質問すると
「僕のお城です。暗いし何も無いけど…」
「どうやったら戻れるの?」
ファンタジーは好きだが、実際に自分がファンタジーを体験するのは正直嫌だ。
それに、家に帰りたい。
「僕と踊りませんか?」
「嫌!家に帰りたい…」
じわっと涙が目に浮かぶ
「僕と、踊りませんか?」
「だから、嫌だってば!ここから出して!」
王子様の目が少しずつ濁っていく
「出さないよ、やっと会えたんだ。王子様はやっと会えたお姫様とワルツを踊って、ずうっと幸せに暮らしましたとさ。」
めでたし、めでたし。
【踊りませんか?】~完~
今日のお題を見たとき、昔みんなのうたであった「メトロポリタンミュージアム」という歌が思い浮かびました。
結局少年は美術館にある絵の中に閉じ込められました。
みたいな結末の歌だったと思います。トラウマの歌…笑
いつも♡︎ありがとうございます。300!有難いです。
頑張って書いた甲斐があります泣
10/4/2022, 12:14:34 PM