霜月 朔(創作)

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またね!




今夜も儚げな三日月が、
何も言わずに傍にいた。
黙って、ただそこにいてくれる。
想い出の中の彼に、
少しだけ、似ている気がした。

焚き火のような、温もり。
ただ、それが欲しかっただけ。
きっと君も、
そうだったんだよね?

心の隙間に、
偽物の夜を流し込んで。
似たもの同士で、
恋人の真似事をしてた。

だけど。
君の目の奥にいたのは、
私じゃなくて、別の人。
名前しか知らない、
君の――本当の恋人。

君から微笑みを
返されるたび、
胸の奥がチクリと軋むけど。
それに気付かないふりをしてた。

君は「またね」って、
笑ってくれたけど。
それは、帰る場所のある人の言葉。
君とは違って、
どんなに戻りたくても、
私にはもう、
帰る場所なんてないんだから。

夜が深くなるたびに、
君の声は遠ざかっていく。
それが、やけに優しくて。
腹が立つほど、悲しかった。

君と私は偽物だったけど、
君のいないこの静けさだけは、
本物だったんだ。

きっと、君は
愛しい恋人の手を握って、
忘れていくんだろう。
この部屋の匂いも、
お互いの哀しみも、
私の温もりも――全部。

それでも私は、
言ってみせるから。
「またね!」って。
まるで、君のふりをして。

4/1/2025, 9:32:37 AM