ガルシア

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 刹那。お前が生きていた時間の表現にはその単語がよく似合う。そう思いかけて、個人に限った話ではないと気がついた。全ての人間は俺より命が短いのだ。
 現実的に言えばそこには何十年という時間があったはずなのに、それさえも圧縮してしまうほど永い生にはいい加減鬱屈としてくるもの。お前が遺した本はかなり擦り切れて脆くなってしまったのでもう触っていない。あんなに本を大事にしていたのに良いのか、などと独り言を口にするのも馬鹿らしかった。名前も薄れつつあるのに、未練がましく愛を主張するほど傲慢なことはない。
 青い空を見上げて欠伸を零した。お前がいた刹那は楽しかったよ。薄っぺらい言葉で括ったその時間は、確かに存在したのだ。


『刹那』

4/28/2023, 1:00:35 PM