海月 時

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「ごめんね。」
彼女に向けた懺悔は、彼女には届かない。

「死にたいな~。」
彼女は言う。だから、僕は言う。
「まだ死んじゃ駄目だよ。」
僕がこう言うと、彼女は少し悲しそうな顔をした。
「いつなら、死んでいいの?」
「僕が死ぬまで。」
ここまで会話したら、僕達の間には沈黙が住み着く。

僕と彼女は幼馴染だ。互いの事なら、何でも知っている。好きな事も、嫌いな事も。勿論、彼女が死にたがる理由も。彼女の両親がどんな人なのか、彼女にどんな事をしてきたのか、全部知っている。でも僕は、知らない振りをする。彼女がどれだけ〝死にたい〟と叫んでも、僕は耳を塞ぐ。だって、ここで僕が〝死んでも良いよ〟なんて言ったら、きっと彼女は本当に死んでしまう。僕はそれが嫌で嫌で、苦しいから、言わない。それが彼女を苦しめていても、僕は彼女に傍で生きていて欲しい。傲慢だって分かってるよ。でも、彼女に恋をしているんだ。

【今まで、ありがとう。】
真夜中に届いた、一通のメール。彼女からのメール。僕はすぐに理解した。僕の愛する人は、もうこの世に居ないのだと。僕は涙を流した。
「ごめんね。」
何度も謝った。でも、許しは要らない。許されて良い事では無いから。彼女を殺し続けたのは、僕なんだ。

彼女が死んでから暫くしても、世界は終わる事は無い。本当に憎たらしい。もし彼女の〝死にたい〟に、〝一緒に死のう〟と言えたなら、きっと僕達は笑えていたのだろうか。でも、僕は傲慢な上に臆病だから、彼女も世界も手放す勇気なんて無かったと思う。

僕は今日も、天を仰ぐ。涙が溢れて仕舞わないように、彼女と一緒に話せるように。

5/16/2025, 1:36:30 PM