「こんにちは。死神さん。」
扉の側で男が驚いて立ちすくむ。
「うふふ。驚いているの?
目が見えないとね、他のところが敏感になるみたいで。
わたしでも知らなかったのよ。死神の存在に気づけるだなんて。」
少女は目を瞑り、男が現れる前のままのあさっての方向を向いて、手に杖を持って話していた。
「死神さんが現れるなんて…
わたし、死ぬのね。
いつ、死ぬのかしら。
………
今日のうち、かな。
なんとなくそんな気がするわ。
死神さんもそんなに長い時間いると思えないしね。」
「………。」
「いいの。わかってるの。
運命には逆らえないの。」
少女が自分の目のことを思いながら話しているのが、男にはなんとなくわかった。
夕食時、この日は少女の屋敷に親族も数名集まっているようだった。
少女の親は、視力を失った時に共になくしていた。
振る舞われた杯のうちの少女のものにだけ、毒が混入していた。
死神は、少女と親族のうちの一人のものと、杯を取り替えた。
死神は、少女に会い、話しかけられた時からきっと心を奪われていた。
ほんとうは、少女の魂を連れて、この世ではないところで共に過ごすことを望んでいたかもしれない。
けれど、死神は少女がこの先生きていく姿を見たくなったし、毒を飲んで苦しんで死ぬ様を見たくなかった。
またそれを見て喜ぶやつらの姿も。
なので死神はその毒を入れた者の魂を連れて行くことにした。
予定と違うので少し叱られはするかもしれないが、数が合うのでまあいいだろう。
「またいつか。
その時はちゃんとあなたが迎えに来てね。」
虚空に向かって少女が呟いた。
「今一番欲しいもの」
7/21/2024, 4:46:08 PM