夢見る心
潮の匂いで、朝が来る。
白いカーテンが揺れて、その隙間から海が見える。
四月の光はやわらかくて、少しだけまぶしい。
窓の外では、同じくらいの歳の子たちが笑っている
制服のスカートが風に揺れて、
誰かが「受験どうする?」なんて話している。
17歳。
その数字だけが、私の中で少し浮いている。
机の上には、開かれたままの問題集。
簡単なはずの足し算で、指が止まる。
ここでは、時間だけが静かに進んで、
私だけがどこにも向かっていないみたいだった。
「あの病院、景色が綺麗らしいよ」
「いいなぁ、1回泊まってみたいかも」
誰かの声が、遠くでこぼれる。
確かに、綺麗だと思う。
光る海も、
どこまでも続く空も。
でも私は、そのどれにも触れたことがない。
芝生を知らない。
柔らかいのか、冷たいのか、
踏んだらどんな音がするのかも。
スケッチブックを開く。
何冊も積み重なった紙の上に、
今日も同じように山を描く。
その手前に、緑を広げる。
本当の色は知らないから、
少しだけ明るく塗る。
そこに、小さな女の子を描く。
17歳の、私。
足はちゃんとあって、
風の中を歩いている。
少しだけ笑っている。
そんな想像をすると、
胸の奥が静かに痛む。
歩けることも、
外に出られることも、
きっと特別じゃないはずなのに
私には、どれも遠い。
ページをめくる音だけが、
大きな病室に小さく響く。
それが、私の時間だった。
目を閉じる。
見たことのない景色が広がる。
芝生の匂いも、風の感触も
全部、想像の中でだけ確かになる。
そこでだけ、
私はちゃんと17歳でいられる。
心はいつも夢を見ている。
4/16/2026, 2:52:59 PM