真鶴。🐰

Open App

「半か丁か、傘を差すか差さないか。うーん」

どしゃ降りの雨の中、学校の下駄箱で一人うんうんと唸る。
朝の天気予報は見た。だから傘は持っている。
なら何をそんなに悩んでいるのかと言うと、自分が傘を持っていないふりをしたいからだ。

「なにひとりでぶつぶつ呟いてるの?」
「ああ、ちょうどいいところにきた。雨がな、降ってるんだ」
「まぁ、見れば分かるわね」
「ああ、見ての通りどしゃ降りだ」
「まさか天気予報見なかったの?」

無言の笑み。
そうだ俺はこいつの傘に入りたいんだ。だからこんな小芝居を。

「……いいわ。折りたたみ傘しかないから貴方半分濡れるけどいいわよね」

ああ、夢心地のようだ。触れ合う肩と肩、ほのかに感じる体温。
俺は今、こいつと相合傘を。

「……あの、俺濡れてるんだけど」
「だから言ったじゃない。貴方半分濡れるって」
「いや半分以上じゃね? 信じられないくらい服が冷たいんだけど」
「仕方ないでしょうどしゃ降りなんだから。傘に入れてもらえるだけ有難いと思いなさいよ」

尋常じゃないほどの雨。憧れの相合傘も、少女漫画のようにはいかないな。

「ああもういいや、俺も差す!」
「は? え、貴方、傘持ってたの?」
「誰が傘持ってないって言ったよ、ばーかばーか!」
「……は、はあああ?!」



#35 相合傘

6/19/2023, 12:42:18 PM