『花束』
花が、好きだ。
どんなプレゼントよりも。
触れてみて、花びらの僅かにザラザラした、じとりとした感覚を指の腹で味わう。
顔に近づけて匂いを嗅ぐ。
花束を抱きしめて、花弁に唇を寄せる。
「ふふ、綺麗。」
目の見えない私にとって、何よりも嬉しいプレゼント。
脳裏には、もうはるか昔になってしまった赤や青や紫の色が弾けるのだ。
目が見えないことが憐憫の対象であると知ったのは、私が実際に失明してからだった。
今まで見えていた世界が少しずつボヤけ、視野が狭まり、今はもう光が有るか無いかしか分からなくなってしまった。
そんなことになった私を、家族や友人は「大丈夫だよ」とか「可哀想」とか言って励ましてくれたが、私にはよく分からなかった。
確かに、色も、人の形も、空に広がる星空も、私には一生見えなくなってしまった。
でも積み木の円い手触り、人々の温かい声色、風の爽やかな匂いまでも失ったわけではない。
むしろ私には、目が見えなくなってからの方が感覚がクリアになって、世界をより鋭く感じられるようになって楽しかった。
今まで気づかなかったことに気づいて、この体のいい所と悪い所を見つけて、それでも楽しくて。
雨が傘に当たる時の音を楽しんだのは、小学生以来だった。
そうして私は、世界を沢山再発見したけれど、やっぱり1番好きなのは花束なのだった。
香りと手触りと質量を同時に感じられる贅沢。
食べ物は食べたらすぐに無くなってしまうし、アクセサリーは匂いがしない。それに冷たいだけ。
その点、花は食べ物よりもう少し長持ちして、かつ枯れる前に押し花にすることも出来たりして、私を何度でも楽しませてくれる。
ラナンキュラス、クレマチス、マリーゴールド、ダリアにアネモネ。
どんな花にも、色や匂いの他にもっと沢山の違いがあることに貴方は気づいているかしら。
見ることだけがこの世界の楽しみ方ではないのだと、花束を通して知って欲しいのです。
2/10/2026, 9:09:48 AM