正月に行われる親戚の集まりほど、逃げ出したくなるものはない。
「佐和ちゃんはお付き合いしている男性はいないの?」
そらきた。
隅の方で小さくなりながらスマホを弄っていた私に、叔母さんがニコリ。
「いません、けど」
「あら、今いくつだったかしら?」
「27よ。ほんとこの子ったら、男の人ひとり連れて来なくてねー」
叔母さんの隣に座りながら、母が私を見る。まるで私がおかしいかのように、なんの悪気もなく。
「あらあら、ダメじゃない。せめて30までは、ねえ?」
「そうよねぇ……ほら佐和、あんたの幸せを思って言ってるんだから、ちょっとは話を聞きなさい」
またスマホに視線を落とした私を、母が目敏く見つけた。舌打ちをしかけて、首を振る。ここで舌打ちなんてしたら、さらに面倒だ。逃げるが勝ち。
「トイレ行ってくる」
「佐和!」
母の声を無視して廊下に出る。
幸せって、他人が決めるもんじゃないじゃん。どうせ私が何を言っても聞かないくせに。めんどくさ。
縁側に座り、先程までメッセージのやり取りをしていた相手に電話をかける。呼び出し音はすぐに止んだ。
『はいはい、どした? 好きな人の話でも出た?』
「付き合ってる男はいないのかって言われた。めちゃくちゃウザくて死にそう」
『あはっ、ウケる。佐和、そういうの嫌いだもんね』
「ほんとさー、そんなの私の勝手じゃん。誰と付き合おうが結婚しようがさー」
『分かるー! あたしのとこもそうだよ。親の言う好い人、って男限定なんだよね』
相手は、「古いよねー」とひとしきり笑った後、声を潜めた。
『帰ってくるのいつ?』
「明後日」
『ん、分かった。迎えに行く』
「甘いもの食べたいから、どっか寄ろ」
『おっけー、調べとく。それじゃ、頑張れ』
佐和なら大丈夫だから、と最後に言われて電話は切れた。直後、メッセージアプリの通知が現れる。どうやら甘いものの候補らしかった。
「ふふ、早くない?」
親戚の集まりなのも忘れ、私は甘いもの候補を眺める。
2人で行くならどこが良いかな、と考える時間が私はとても幸せだった。
1/4/2024, 3:21:05 PM