束の間の休息
「今週は一度も遭いませんね」
「フラグって言葉知ってるかお嬢」
「知りませんですわ」
一週間も折り返し、水曜日の帰り道の会話である。
まだ水曜。だがもう水曜でもある。いつも月曜の放課後には遭遇してた。2回くらい。何に?言わせんなよ恥ずかしい。
別に俺の落ち度じゃないから何でもいいけど。
これは事故というか自然現象というか、運の悪さというか。
揃いのブレザーを着て歩く姿は彼氏彼女に間違われそうで全然そんなことはない。クラスメイトがいいとこである。一緒に転校してきたけど苗字が全然違うので「兄妹…?」って聞かれる。
違います。
ひょんなことから(100%俺のホラー体質が原因で、お嬢はそれに巻き込まれた他人だ。だけど俺だって好きでこの体質な訳じゃないから、俺も俺の体質に巻き込まれた被害者だと主張していきたい)四六時中行動を共にしなければいけなくなった俺たちはそこそこ仲がいい。こうして下校中にくだらない会話ができる程度には。
「……あのさ、しりとりした方がいい感じ?」
「いえ別に。鼻歌でも歌っててください」
「ふーん……あ、コンビニ寄ろうぜ」
「不良ですわね」
「別に入り口手前でたむろしようってんじゃねぇわ」
「タバコはダメですわよ未成年ですし健康に悪いです」
「買わねぇし吸わねぇよ」
「……何しにいきますの?」
「この令和の世にコンビニ行ったことない奴いたんだな」
ぷぅ、と頬を膨らませるお嬢、別に可愛くない。
「行ったことが無くても死にません事よ」
「まぁ大体石蕗さんが持ってるもんな」
細々したお菓子とかリップとかほかほかの肉まんとか。
あの人なんなんだろう。超人?ポケットから何でも出てくる。
「嫌なら外で待ってればすぐ出てくるから」
「内部に不良がいる可能性も捨てきれません、私も同行します」
「コンビニって別に不良の巣窟じゃねぇからな?」
お嬢のコンビニ観って何から来てんだろう。
多分深夜の方だよなそれ。
未成年はタバコ買っちゃいけないんだぜ。
入り口付近でたむろするのも他の人の邪魔になるから避けるんだぜ。あと何かあったか?万引きはどこでもダメだし店員さんに無茶言ったりもダメなんだぜ。マナーを守って優しく生きよう。
「別に悪い事したりしねぇわ、なんか甘いもんみたり買ったり肉まんみたりおでん見たり買ったり食ったり」
「……うちまで我慢して石蕗に頼んだ方が美味しいと思いますわよ?」
「馬鹿め、石蕗さんじゃダメなんだよあのジャンクさは」
「石蕗にダメな事なんて存在しませんわ、訂正してください」
「ある」
「ありませんわ」
「……ならとにかく買って食ってみろ、文句はそれからだ」
「受けて立ちますわ!」
意気揚々と踏み込んだコンビニ。所狭しとならぶ商品。
『生肝あります』『心臓とれたて』『冷凍目玉(加熱調理用)』
『フライド肋骨』『脳漿サンドイッチ』
「俺の知ってるコンビニじゃねぇ!!!」
「今週のノルマ、とりあえず1達成ですわね」
「言ってる場合か???」
命からがら脱出したあと、ゼブンでめっちゃ豪遊した。
次はリャミマ。
10/8/2024, 10:24:42 PM