ヒロ

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美術館の特別展。
満を持しての劇場版公開。
再燃した休日のお菓子作り。

休みの日に入れたい楽しいスケジュールが目白押しだ。
それなのに、どうして本社は空気を読まないのか。
資格更新のキャンペーンが何故今なのだ。

面倒臭いことこの上ない、が。
受講はフリーとは云え、肩書きもある分、ペーペーの頃のように無視できないのが憎らしい。

観念して、試験の資料を机に広げる。
決めた。今日の休日は一日自宅で過ごそう。
観たいドラマもあるけれど、取り敢えず娯楽は後回し。
気は乗らないが、先に試験勉強に打ち込むとしよう。
重い腰を上げ、久しぶりにノートパソコンの電源をオンにした。

『更新プログラムがあります。アップデートを開始しますか』

――おう。流石は私の相棒だ。
ご主人の嫌々を読み取って、折角のやる気をへし折ってくるとは天晴れだ。
もう遊んでしまえってことかしら。

溜め息を吐いて、自棄になった思考を引き戻す。
アップデートを先送りしたところで、きっと作業途中に同じ警告はまた出てくる。
勉強が乗ってきたところを邪魔されるより、今から更新してしまう方が得策か。
指先でカーソルを操り、イエスを選んでアップデートを始めさせた。
案の定、更新ペースはゆっくりで、しばらくパソコンは使えそうもない。

仕方がない。更新が終わるまで外に出るか。
そういえば、通院のタイミングも近付いていた。
来週にしようとも思っていたが、もう今日行ってしまおう。
ついでに買い物にも足を延ばして、美味しいものを勉強のお供に買って来よう。
その頃にはきっとアップデートも終わっている。と、信じたい。

ちらりとリビングを振り返る。
ちゃんと。ちゃんと帰ってくるから。嘘じゃないよ。
だから、午後には使えるようになっていますように。

私の念が通じてか、返事のようにパソコンが唸る。
優秀な相棒を拝んで、家を出た。


(2024/02/27 title:009 現実逃避)

2/28/2024, 9:58:19 AM