雨の香り、涙の跡
踊るように雨に打たれる君が酷く綺麗に映った。
「ふふ、気持ちいいです。××さんも一緒にどうですか?」
「……うん、そうだな。たまにはいいかもな」
迷いなく雨に飛び込んだ姿に正気を疑った。けれど雨が止むのを大人しく待っている自分がバカバカしく思えて。俺も正気を失ってしまった。
服が身体に張り付いて気持ち悪いはずなのに、何故か心は軽やかだった。
寮に着く頃には二人とも全身ずぶ濡れになっていて、中に入るのは少しだけ躊躇われた。
「…これは風邪ひくかもな」
「その時は看病しにきますよ」
「お前は平気なのか?」
「丈夫さには自信があるので」
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雨が降るたび、あの日の記憶が鮮明に思い出される。
笑い声、跳ねる水音、眩しい君の表情。
今日も窓の外では雨が降っていた。
その気配に誘われ、ふらりと外に出る。
雨音は確かに響いているのに不思議と静かだ。
あの日と同じように、俺は傘もささずに雨の中へと歩き出した。
歩くほどに服が肌へと張りつく。あの日は気にならなかった服の重みが気持ち悪い。
雨はこんなにも冷たいのに、何故あの日は暖かく感じたのか。
頬をつたうそれには気づかないふりをした。
今日は君がいなくてよかった。
きっと君は気づいてしまうから。
君にこんな姿は見せたくなかった。
6/19/2025, 6:40:55 PM