何を忘れてきたのだろう。
私はある1年間の記憶がない。ぽっかり、と抜け落ちたその時間が、幸せだったのか不幸だったのか、さえも分からない。なんともない日常だったからこそ思い出せないのかもしれない。
もう長くはない、と医者に言われ、最期は慣れ親しんだこの家に戻ってきた。私は血の繋がった身内はいなかったが、ありがたいことに昔の仲間たちが代わりばんこに世話しに来てくれた。動かない身体をさすったり、食べられそうな食事を作ってくれたりしてくれた。もうすぐ死ぬというのに本当に穏やかな毎日だった。いや、死が間近だからこそ、穏やかだったのかもしれない。
夜中、目が覚め天井をみると、不思議な光がくるくる舞っていた。いよいよか、と思った瞬間に、突然抜け落ちていた空白の1年間の出来事が映画のように目の前に流れはじめた。こんな大切なことを私はなぜ忘れていたのだろう。思い出せてよかった。涙がとめどなく流れ出る。そして、ただただ祈る。手放してしまった、その人のしあわせを。
11/24/2025, 6:55:19 AM