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私の死んだ祖母は自室に不気味な狐の掛け軸を飾っていた。
墨で尻尾の先まで真っ黒な体なのに瞳だけ満月のような金色で真っ赤な口は耳までさけていた。
真夜中にはケーンケーンと鳴き。気がついたら掛け軸から狐の部分だけさっぱり消えていた。

「こんな不気味な掛け軸、神社かお寺に持って行ってお焚き上げしてもらおう。」

掛け軸の怪奇現象に怯え、解決策を提案しても祖母は首を縦に振らず。怪奇現象に対して、「昨夜は月夜が綺麗だったから散歩に行きたかったんだろう。」と呑ん気に考え。挙げ句いつ摘んできたのか、タンポポ、シロツメクサ等の花を掛け軸の前に飾っていた。

そんな事をお葬式中、思い出を振り返る。最後に祖母に花を備えようと棺を開けると、その場にいた人全員が驚いた。

祖母の白装束が墨で真っ黒になっていた。胸には葬式の花としては似つかわしくない黄色いタンポポが乗せられている。
式場スタッフたちが慌てふためく中、私は死化粧を施されている祖母の目や顔立ちが安らかになっていると不思議と感じてしまった。



[安らかな瞳]

3/15/2023, 4:25:34 AM