イオリ

Open App

夜景

ベランダでキャンバスと向き合う。

夜のビル群。都会は好きじゃないけど、この景色の美しさは認めざるを得ない。


楽しそうに描くのね。 ワインを片手に彼女が言った。

楽しい。

どんなところが?

例えば、窓明かり。

窓明かり?

うん。あの最新のビルのあの部屋で、どんなかっこいい仕事してるのかなとか、光がない部屋は、今日は残業の人はいないのかな、とか考えるのが楽しい。

ふうん。どれもおんなじ光に見えるけど。

夢がないねえ。でも……。

でも?

みんな絶対に違うよ。みんなそれぞれ特別の光。そう思うと、都会にいる時の時間がただ流れるだけじゃなくて、何かの意味があるって思える。

あなたって、なんだか小難しいことばっかり考えるのね。

変?

かもね。でも嫌いじゃないわ。 そばのランタンを揺らしながら彼女が言った。

この光も特別?

そう。特別。

どんな特別?

僕がいて、君がいる。そういう特別。

なるほど。

ふふっと彼女は笑った。それから部屋から椅子を持ってきて側に座った。その日の夜景を描き終わるのを、ワインに酔いながら静かに待ってくれた。










9/18/2024, 11:16:20 PM