貝殻。貝殻ね。貝殻にまつわる、よるのはなしをしよっか。おれはねぇ、あの本がすき。入学したてのころ、昼寝する場所をさがしててた折。図書室の深窓で、ひとりでに落ちてきやがった本。むかぁしの本だったかなぁ。
オンナが「もう死にます」って言った。傍らにいたオトコが、ソイツの遺体を埋めて、百年、オンナがかえってくんのを待つはなし。
あんなに、よると月魄がにあう、ふしぎなゆめのはなしが、おれのこころに居座ってる。オトコはやくそくをまもるんだよね。真珠貝で穴を掘って、オンナの遺骸を埋めて。それから星の欠片を供えて。苔むした石の上で、いちにちを数え待つ。つめたいよるに、自然のあたたかさが手に添えてくれる感覚がすんの。なんとなく、これがニンゲンなんだって、オレはおもった。
でもさぁ、おれには「対価」が必要なの。だから、オトコが百年待つ理由は、ない。…オレがオトコだったら。オンナのためにはまいにち待たない。めんどくせぇじゃん。オンナに言われたから待つんじゃなくて、おれが「待ちたい」っておもったら。それはただの、おれの、エゴ。あは、おもしろ。
アイとかコイとか、そんなものは要らない。おれとおまえが、てきとうにたのしければ、それでいい。もしおまえがしんだら、おれはおれなりの方法で、かえってくるのを、気長にまったげる。かも。やっぱりおれのことだから、飽きるんじゃね?アハ。其れもまた、人間臭くて良いんじゃねぇの。
貝殻/それから 約束の話
9/6/2023, 12:40:02 AM