作家志望の高校生

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ああ、幸せだ。
俺は腕の中にある頭の、ふわふわとした髪を撫でながら、そう思った。栗色の髪はさらさらなのに猫の毛のように細く柔く、手櫛を通せばさらりと指の間を抜けていく。
「明日、行かなきゃだな……」
野暮用を思い出して少し憂鬱になるが、今はそんなことを気にしている暇があるのなら、この柔らかな質感を感じていたかった。
一通り髪の感触を楽しんで、俺は彼をまた寝かせた。目を瞑った彼の顔は、普段の少しきりりとした顔と違ってあどけなく見える。
ぷに。と手持ち無沙汰故に彼の頬をつつく。眠っている彼は反応も返してくれないので、余計静けさが目立って感じた。
「……はぁ……この生活も終わりだな……」
ぼんやりと、天井を見上げながら呟いた。彼は、相変わらず眠っている。冬休みに入っていた俺らは、そろそろ休みも明けてまた学校が始まる。未完成の課題に、埋まる気配のない日記。高校生にもなって日記を書かされる意味も分からず、書くこともないので埋まらない。
「……お前、課題終わってんの。」
寝そべったままの彼に問うが、返事は無い。まぁ、いつも提出物は休みの前半に終わらせる彼のことだ、どうせもう終わっているだろう。
「な〜……写させてって……」
無意味に頬をつつき続けながら、かわいこぶってねだってみる。反応も無いが、自己満足なので大した問題ではない。
「……もう、限界なんだって。」
ふわふわとしていた高揚感が不意に薄れ、現実が俺に突き刺さる。目の前の彼の顔は、酷く青褪めたままだ。
「……だってさ、許せねぇもん、俺。」
目の前の彼は、間違いなく俺が殺した。殺して、丁寧に内臓を抜いて肉を削いで。当然、抜いた内臓と血は全て俺が食べた。全部、血の一滴さえ残さずに。そうしてできた抜け殻を乾かして、剥製にした。もう、二度と彼が他の者に奪われないように。
「……お前が他の奴にベタベタ触られてんの、すげぇやだった。」
彼は、あろうことが恋人を作ったのだ。俺がいながら。
だから、俺は彼を俺だけのものにするために殺した。明日、俺たちはこの街を去る。もう、全てのしがらみから解放されたかった。
課題なんて、本当はやらなくてもいい。もう、退学届は出してある。鞄に詰めた2人分のロープを一瞥して、俺はまた彼の柔らかな髪に指を通した。
彼と2人で、永遠にいられる。それは、俺にとって至上の幸せだった。

テーマ:幸せとは

1/5/2026, 9:44:48 AM