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 小さい頃から、『穴に飛び込んで』ブラジルに行くことが夢だった。
 バカな事だと周りから散々言われたが、少なくとも私は真剣だ。
 そして今、私は夢を叶えようとしている。

 目の前にある穴はブラジルまで通じる予定の穴だ。
 嘘をつくなと怒る方もいるかもしれない……
 だが私は成し遂げた。

 もちろん人力ではない。
 普通に掘るだけでも重労働だし、り掘るだけをしては生活もできない。
 だから私は機械工学を学び、作ったのだ。
 地球の裏側まで掘り進めるモグラ型掘削機を。
 だがそれでも足りない。

 地球の内側は熱い。
 なんでも6000℃くらいで、太陽の表面温度くらいはあるそうだ。
 もし穴が通じていても、中心部を通るだけで消し炭になり、ブラジルには行けない。

 なので作った。
 太陽の炎にも耐える、耐熱服を……
 これで安心、あとは穴が開くのを待つだけ……

 感慨にふけっていると、目の前のモニターが掘削完了のシグナルを出る。
 このシグナルはモグラ型掘削機が、地球の裏側まで掘り進めたことを意味する。
 これでブラジルまで穴が繋がったわけだ
 ありがとう、モグラ123号。
 あとは落下するだけで、ブラジルに行ける。

 だが飛び込む直前で、怖気ついてしまった。
 絶叫系がダメなのだ
 何事も経験だと、一度だけ乗ったジェットコースターの事を思い出す。
 アレは地獄だった。
 ここに来て行きたくないと思い始める

 だが私は首を振って思い直す。
 ここまで来て中止なんてありえない
 こういうのは、勢いだ。
 思い切って飛び込む

 内臓が上に押し上げられるような嫌な感触とともに、私は落下する。
 とんでもない勢いでどんどん落ちていく。
 しばらくすると、落ちているのか、浮いているのか、感覚が麻痺してなにも分からない。
 だが私は何も心配してない。
 なぜなら私の計算は完璧だから。

 ブラジルに着くまで40分くらい。
 空気抵抗があるから、もう少しかかるだろうが、それは誤差の範囲――

 
 あっ空気抵抗を計算に入れるの忘れてた。
 このまでは重力の向きが変わったとき、勢いが足りずブラジルまでたどり着けなくなってしまう。
 悩んでいる間も、私はどんどん落下していく……
 このままでは、私はずっと落下したままどこにも辿り着けなくなってしまう
 だれか助け――


 ◆

 衝撃が体を伝う。
 何が起こったか分からず、体を起こす。
 すると目に入って来たのは、見慣れた寝室だった。
 夢だったらしい。

 椅子に座って寝て、椅子からずり落ちたようだ
 正直悪夢だったので助かった。

 汗をびっしょりかいて、気持ち悪い。
 シャワーを浴びよと立ったところで、庭が視界に入る。

 庭には穴があった。ブラジルまで通じている穴――
 出はもちろんなく、子供の頃、ブラジルまで掘り進めようとして、諦めた穴だ。

 頑張って掘ったのだが、ある時不注意で穴に落ちてしまい、それ以来落ちる感覚がトラウマだ。
 埋めたかったのだが、親がもったいないと言って、夏にプールとして使っている。

 この穴を通じていたら、ブラジルまで行くかって?
 無理、精神が持たない。
 落下はもうコリゴリだ。

6/19/2024, 1:44:30 PM