12歳の叫び

Open App

お題〈愛を叫ぶ。〉

吐きそうだ。
僕の目の前にあるのは、彼女の死体。
僕が。
この僕が。
この手で、人を殺めたのだ。
彼女をお風呂場の湯船に沈め、首を絞めた。
彼女は、水の中にいるというのに、それでもやめてと、口を動かしていた。
それだというのに、僕は手を離すことは無かった。
だって、菊がいけないのだ。
僕以外と会うから、話すから、愛想を振りまくから、期待するようなことを言うから。
だから僕は、殺人を繰り返していた。
菊と話したヤツも、菊と浮気をしたヤツも、菊と、菊と…!
みんなみんな、殺したんだ!
でも菊がいけないんだ。話さないでと言ったのに、笑って済ましたし、浮気を叱っても、笑って済ます――。
菊は昔からこうだ。
自分の罪を認めず、誰にでも好かれようとしていた。
完璧を求めすぎなんだよ。
でも、そんな彼女が好きだった。
大好きだった。
愛していた――。
だからだよ。だから、菊を殺した。
皆に愛されようとする菊を、助けるために。
人に縛られる人間を僕は救った。
神から反対されていたとしても、俺は聞く耳を持たなかった。
仕方ないでしょう?
だって。
だって僕は人間に恋をしてしまった天使だもの――。
僕は、菊が零歳の頃から近くで見守ってきた。
クラスの男子に虐められて帰ってきた菊を毎日慰めていたのも、悩み相談を夜に聞いてあげていたのも、怒られた時慰めていたのも、みんなみんな、僕だった。
そうして、菊と関わっていくうち、菊と恋人という関係になれた。
まあ、その瞬間から神からは見放されていたと思うけど。
仕方ないことだ。セミロングの黒髪も、ブラックホールのように黒い大きな目も、調度良い薄さの唇も、全部全部好きになってしまったのだから――。
にしても、僕は馬鹿だ。
天使だというのに、人間を殺した。
そんなの堕天使じゃないか。
どうか、どうかこの最低な天使を殺してくれ――。
でも、そんな願いは届かない。
僕は天使で、他の人間からは見えていない。
だからきっと菊が死んだ理由は、ひとりで溺死したということになる。
僕は、僕は、どう反省すれば良いのだろうか。
神から見放された僕を叱ってくれるヤツなんていやしない。
でもね、菊。
こんな僕にも言えることがある――。
聞くの努力は僕にだけは伝わってたよ。
テストがある三ヶ月前から勉強していたことも、足が遅いと言われて、毎日家の周りを走っていたことも、鏡の前で笑顔の練習をしていたことも、流行りに乗るために、興味も無いSNSをダウンロードしていたことも、全部全部。
だからね、怒っていないのなら、生まれ変わったらまた会いたい――。
そして、僕は見つけた。
前世、僕が愛していた菊を。
今世も、前世と変わらず、人間に縛られているんだね。
だから茶トラ猫に生まれ変わった僕は、菊の制服のスカートを噛み、引っ張る――。
「はぁー?馬鹿猫!可愛いと思ってたのに…」
菊は、僕に向かって暴言を吐いた――。
あーあ、もう!なんだよ。俺、菊の本当の姿を知らなかったよ――。
「…猫ってモンシロチョウ食べるんだ…。なんか、お前みたいでばからしいや。退部届でも出そー」
なんだ。堂々と生きれてるじゃんか。だから僕は菊には伝わらない猫語で言う。
「菊が、楽に生きられてて、僕良かったよ。最低だけど言うね。殺してよかった」
そして僕は、その言葉の後。菊の後ろ姿を見ながら。
「愛してる!」
僕は愛を叫んだ。
これは、小さな猫の体なりの叫びで、愛の叫びに種類も、大きさも、形も何も無いのだ。

フィクション。(小説初心者)前回のモンシロチョウと繋げてみました!

5/11/2024, 10:54:17 AM