事故宇宙船から飛び立った救命ボッドの中で。宇宙飛行士とパートナーAI。
『Gift for mom』
「おうち時間でやりたいこと? 決まってるだろ」
刻々と減る燃料メーターと軌道突入時間までのカウントダウンを睨みながら、彼が怪訝な顔をする。
「……おうちに帰られれば、だがな」
「心配ありません。貴方には私と言う完璧な相棒がいるのですから」
『彼は遅刻魔だから、私の誕生日に間に合うように帰還させて』
以前、届いた博士のメッセージをバックグラウンドで再生する。
「宇宙船事故を防げなかった優秀なAIさんが?」
「天文的確率の事故では仕方がありません。その後の応急処置と避難誘導は完璧だったでしょう?」
彼が自分の乗る救命ボッドを見回す。
「確かに」
「大船に乗ったつもりでリラックスしていて下さい」
「実際は小舟だかな」
小さく笑う。
軌道計算も残存燃料の計算も完璧。なんなら彼の精神状態も完璧だ。
「いきます」
「ああ」
もう一度、私を作った博士のメッセージを流す。
貴女へ、貴女の大切な人を、きちんと時間通りに、怪我ひとつ無い状態で届けましょう。
「Gift for mom」
お題「おうち時間でやりたいこと」
5/13/2023, 12:32:50 PM