ノンフィクション
大好きだと思った子が付き合ったことを煌びやかなコミュニティツールで知ってから、16分経つ。
13分前に私がその子が一人で羽が生えて空に浮いていったかのような気持ちになったのを覚えている。
一つずつ私の手の温度から離れていった気がして喪失感を抱えて、文字を書いても白い画面の文字の隙間に涙をするような、いやな日。
感情の形で埋まらないメモアプリの画面が開いた心の空洞とそっくりで地に足がついた私は、その子を追いかけて生身の身体で飛ぼうとも思えなかった。
おめでとう!と幸せの心の形を縁取ったような応援の言葉は送ったもののその輪郭は確かだったし、私のように不幸を眺めて欲しくなかった。
真っ直ぐで笑い方が可愛く思えてくる面白い子が笑っていてほしかった。
もう31分前になってしまったが、私はその子の返信で謝罪を受けた。
その子はある出来事に怒り私の平凡なコミュニティツールの連絡先を消した、らしかった。
冷えた。ドライヤーで乾かさない髪はもう雫は垂れていなかったが、偶然できた足の膿に食い込んだ爪の鋭利な刃もほんとうは私を刺してもいなかったかもしれないが、「もういや」という言葉を言おうとして口の渇きが止まらずそのまま食堂を通り身体を奪ってしまった。
「ーーーーー。」
ところで今の身体は無くなってしまったので、脳味噌には別の私の声が聞こえるようになった。波動が、チャクラが、5Gが。そんなものを無視して脳味噌の声は響いている。
しかし心はそのまま動き、でもそこに右心室などという生物的な気持ち悪い細かさは無く、ただ暖色と寒色を概念としたような生温さと固さの二つが交互に浮かび上がっては薄まっていくようだった。
丸三日のような30分を過ごした。その内、脳味噌の方が心の私の言葉を話せるようになって、いつもよりほんの少しあいうえおを重く使った。
脳味噌を「自分B」だとすると、自分Bは、
「自分を心底最低で他人からの安心を求めると一緒に気持ち悪い自分を認められないことが嫌で、でも気持ち悪い自分の姿すら見せたくもないし受け入れてもらって思考停止したいのに他人に人生を委ねることは最悪だと思っている。
最低な自分でいるべきで、ただ明るい未来を歩みたい意思だけはありこのように分析することで自分が言葉の中だけの人間になることを嫌っている。」と語り始めた。
彼女が寒色で話したことを私は陽の光で劣化した本の色みたいな暖色で聞いた。Aは私の身体を半分奪ったが、不思議と嫌いとまでは思わなかった。
次第に、私は深く固い冷たさとなった。冷たさという形は寂しいより少し固い。
心の雲から冬の風が来ていた。でもそれは嫌なことじゃ無くて春に向けて思い出す準備をしている。自分Bはそれを知らずに寒くなった私を見て悲しくなって、萎んでいた。それを見て苦い咳が止まらなくなって、幸せでいて欲しくて話した。
「私たちが冬で終わりということは、脳味噌の私も気づいていたけれど、なんで冬で終わりだと思う?」
Bは
「明るいイメージの春で終わりを迎えたいとかじゃないの。」
と口を尖らせて答えを言った。私はそんな理由ではBが満足しないことは知っていた。
「…そうじゃないよ。脳味噌の私も最後の気持ちを思い出して、なにがあったと思う?」
脳味噌は咄嗟に言葉を私に合わせられずに困惑しているような電波を発信した。Bは賢く、この場所では脳は気持ちを感じられないことを知っていたからだ。何も答えられなかったBに、私は続ける。
「私たち、さっきまで友達がいやになってたんだよ。
自分を好きか問われると頷けないのに、人を無意識に信じて信じた人から厳かにされる惨めさには見てられなくなって、それで、嫌になっていたの。だから最後は悲しい気持ちで終わるんだよ。」
分からない。
「でも、大丈夫。私たち、元々は一つだったから元に戻るだけだよ。」
私にもそれが本当か分からなかった。ただ、嘘を知るのは私だけでよかったし、笑えなくても私はよかった。暫く、なんだか分からないような電波に身体が包まれる。目をぱちぱち、と動かすとなぜだか呆然と怒りが湧いてきた。火照った頬の暗さの下に血があるように怒っている。
思い出した。あの子がどんだけ変わっても私は変わらないから貴方のこと許すとか、許すとか言って上に立ったような物言いをすることとか、好きでいられないと思うし、暫くは話したく無いと思う。私は、文章を書いてちょっとあの子を嫌いになった。
早く付き合った男と幸せになって、私のこと忘れてよね。
4/16/2026, 5:46:08 PM