とある国の廃教会で、四人の語り部は祭壇前に刺さる剣を見ていた。
「なぁ、どうしてこんなところに、こんなものがあるんだと思う」
一人の語り部が尋ねる。
「そんなん知ったこっちゃねぇ。誰かが刺したんだろ」
「それは当たり前だ。誰かが刺さなきゃ、剣が勝手に大地を貫くわけがない」
「じゃあ誰が刺したって言うんだ?」
「それこそ知る由もないことだろ」
語り部達は互いの顔を見ることもせずに言葉を返していく。四人の会話は全くいい加減だ。互いの話を真面目に聞く気も、考える気すらないようだ。
「じゃああのでかい肖像画に描かれているのは誰なんだ?」
先程とは違う語り部が、祭壇後ろのステンドグラスで描かれた女性の肖像画を見つめて問いかける。
「いや知らねぇよ。誰だよ」
「翼が生えてるから天使か何かじゃないか?」
「は、天使だと?あの美しさは女神サマ一択だろ」
「なぁ、この本なんて書いてあるんだ?」
また別の語り部が、壁沿いに並ぶ棚に収められた一冊の本を手にとって問いかける。
「なんだこれ。日記帳か?」
「昔の言語か。こんなの誰も読めやしねぇ」
「なんでお前らは絶対にわからないことを聞くんだ」
「ところでここに花が咲いているんだが、何ていうんだ?花の種類くらい、誰か答えられるだろ」
先程疑問を投げかけた三人とはまた別の語り部が、瓦礫のすぐ傍らに咲く花を見て問いかけた。
「知らんわ。お前答えられるのかよ」
「ここには花に詳しいやつなんかいないだろう」
「お前ら、過ちを繰り返すな」
そこまで話すと、四人はしばらく何も言わなかった。しばらくの沈黙の後、誰かが静かに口を開いた。
「本当に、誰も何もわからないんだな」
その言葉を聞いて、誰かが言葉を返す。
「ああ、何もわからない。でもこの教会には、この国には、昔こんな物語があったかもしれない」
語り部達は半壊した廃教会の中で空想を紡いだ。
「物語の始まりは、そうだな。
王国の端、森の外れにある小さな教会の神父サマが、国を救う決意をしたところから始めよう」
「昔々、世界には様々な種族がいた。女神の末裔がその神父と、近くの泉で出会ったら面白いだろうな」
「やむを得ない種族間の、悲しく儚い戦いを日記に記した奴がいたかもしれないよな」
「森にはエルフがいたかもしれない。彼らは花や草木を愛していて、最後には自らの命を削って森の力になったってのも面白い」
「そうして最後には、この世界の今に繋げよう」
四人の物語は全くいい加減だ。存在しない生き物、歴史にない王国、種族戦争。実にファンタジーじみていて、まるで現実味を帯びていない。
「まぁ、馬鹿みたいな話だよな。こんなの」
「でも全く可能性がないとは言い切れないだろ」
「こんな廃教会にも間違いなく何かあったわけだしな」
「この世界のいつかどこかで、こんな話があったかもしれないって考えた方が物語は面白くなるってものだ」
4/18/2025, 12:36:03 PM