名無しLv.1

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「すみません! スマイルありますか!?」
店に転がり込んできた男が必死の形相で聞いてきた。
「えっと、スマイルのご注文で合っておりますでしょうか?」
男の様子と台詞がミスマッチすぎる。救急車を呼んでくれ! や匿ってくれ!のテンション感で言う台詞ではない。
「今日中に、どうしても、必要なんです」
息も絶え絶えに男が言った。よくみるとカメラを握りしめている。
「スマイル特集で、あと一枚で、できないとクビなんです!」
泣きそうな顔でレジカウンターにすがり付いてきた。いつもはウケ狙いの注文だけ、リピーターはなし、利益もない、スマイルは無意味の代表格だった。そんなスマイルがこんなにも強く求められている。
「ご注文、承りました。スマイルを一つですね」
男の顔に喜色が浮かぶ。これは失敗できないぞと気合いを入れた。いつもは口角を上げるだけのお手軽スマイルだったが、今回はそうもいかない。男のクビがかかっている。顔中の筋肉に意識を集中させる。
「こちらスマイルになります」

結論からいうとスマイルは失敗した。見なくてもわかるくらいに顔がひきつった。慣れないことはするもんじゃない。撮り直しは十数回に及んだが、男のクビはなんとか繋がったらしい。

11/9/2024, 3:45:58 AM