いつだって、オーナーはズルいのだ。
「うん、じゃあ。サエキさんのお目当てが彼だってことは、僕とサエキさんの『二人だけの秘密』にしておこう」
オーナーがそう言いながら、人差し指を自身の唇に添え、おどけたように軽く片目をつむって見せた、あのときだって。
必死に隠していたことを知られ、動揺しまくっている私のことを、オーナーはきっと愉しんでいたに違いないのだ。
……現に、いまだって。
男の人、という生き物に免疫がない私にこんなことをしたら、私みたいな女子がどういう反応をするか、なんて……。
「全部わかった上で、それをおもしろがって、こういうことするんですよね?」
「こういうこと、って?」
閉店後の店内には私とオーナーだけ、外の立て看板は店内に片付けたけれど、店のドアの鍵は、まだ開いたまま。
表通りからは死角になるソファ席で、私はオーナーに、頭をやさしく撫でられていて。
テーブルの上にはまだ、食べ終わったまかないのプレートとフォークがあって。
ついさっきまで、先に上がってゆく同僚たちを見送りながら、オーナーと並んで食事をしつつ、雑談をしていて、それで。
話の流れで私は、「失恋、というか……彼のことは、もうなんとも思ってないです」とこぼしてしまって──そもそも彼には付き合っている女性がいたのだから、成就もなにもなく、ただ不毛な片思いをこじらせていただけ、だったのだし。
(それを終わらせたのは他でもない、オーナーのせいなんですよ! )
という心のうちを、すんでのところで飲み込んで、なのに。
こんなふうにやさしく撫でられる、とか──私にとってご褒美でしかない仕打ちは、それはないんじゃないかと思う。
「こういうこと……頭を撫でる、とか」
「ああ、困らせちゃったかな」
オーナーは、でも、まったく焦った様子もなく、隣にいる私との距離を取ってくれたのだけど。
「嫌、だった?」
「……え?」
「僕に触れられるのは、生理的に受け付けない?」
「なんの、話、を……」
「僕は……いや、俺は。割と観察力はあるほうだって、自負してんだけどね」
……俺? 観察力?
絶句しながら無意識に、オーナーの発した言葉を、内心でオウム返しにする。
「だから、ね。もし俺のことが受け入れられないなら、ちゃんと逃げてほしい。でも、これが最後のチャンスだから、よく考えてくれないか」
「最後の、チャンス」
「そう。貴女が片思いしてる間も、待ってたし……格好悪いけどね、サエキさんの視線の先を日々追ってしまうくらいには、サエキさんのこと、見てたから」
待ってた、それに、見てた、とは?
そんなの、期待してしまう……のに。
オーナーはそれから黙ったまま、私を痛いくらいに見つめてきて、なのに、決定的なことを言ってはくれないのだ。
……とはいえ、私も。
ソファに投げ出されている、少し前まで私に触れていた手、その手の甲に指先を添わせるのが精一杯。
そんな私の反応を待っていたかのように、オーナーの大きな手が私の手を、すかさず握り返してくるのだから……ああ、もう!
ズルいです、オーナー!
5/4/2026, 10:19:20 AM