1/16「美しい」
細い平筆で爪先に彩りを添えていく。白い頬にやわらかな紅を乗せていく。長く艷やかな髪を梳き、丁寧に編んで髪飾りで留める。
さあ、もうすぐ出来上がりだ。
緑水晶の瞳をそっとはめ込む。まぶたを閉じさせ、指で軽く馴染ませる。
肉体も魂も汚れひとつ付くことのない、私の麗しい人形。
彼女は薄く目を開けると、私の生き写しのような満足げな笑みで口元を飾った。
(所要時間:8分)
1/15「この世界は」
この世界は、回っておる。
本を読む。知識を取り入れる。知識を編む。魔法が生まれる。魔法がペンを取る。ペンが本を書く。
この巨大な図書館は、そうして回っておる。巨大なアクアリウムのようにな。
わしは千年の司書。本を読み、図書館を管理するためにおる。
わしがすべての本を読み終える日は、おそらく来ない。たが、それでもこの世界は、回っておる。
(所要時間:8分)
1/14「どうして」
村のため、父さん母さんのためを思っての事だった。
話さなければ村の者の命はない、そう兵士たちが告げていたから。逃げ込んだ男一人の行方を明かすことぐらい、村の命運と天秤にかければどうってことはないと思っていた。むしろなぜ村長たちが男を匿うのか不思議だった。
けれど。
「ここから逃げろ! すぐに!」―――そう叫びながら連行された男。突如、村を襲った空飛ぶ竜の群れ。燃えさかる村。
炭と灰になった村の前で、ぽつりとつぶやく。
「どうして」
(所要時間:9分)
1/13「夢を見てたい」
こうして、瓦礫の上で君と踊りながら。
君のなびく髪を透かす夕陽に目を細めながら。
君のきらきらと光る瞳に目を奪われながら。
夢を見てたい。
僕ら以外の全てが滅び去ったこの世界で、何もかもを、忘れて。
(所要時間:4分)
1/17/2024, 12:22:36 AM