絆
あの日。
僕は手に握りしめた糸を手繰り寄せて、大事に大事に、手渡した。
「幸せになってね」「いつまでも愛しているよ」
そんな温かな言葉を紡ぐように、糸は柔らかく風になびいていた。
あくる日。
僕はその糸の先に何があったのか、分からなくなった。見つめても見つめても、糸の続く先は濃い霧のようなもので覆われているだけ。
僕の心を映すように、糸はゆらゆらと揺れていた。
ある晴れた日。
僕は霧がなくなったその先に、何があるのかを見た。
あの遠い日、僕の全てだったそれは、握りしめた糸の先でハサミを持って笑っていた。
擦り切れそうな糸は、寂しそうにキシキシと音を立てている。
ああ、そうか。そうだったのか。
僕はその糸を握りしめるのをやめた。
そうだ、もう片方の手はどうしていたっけ…?
そこには、途切れた糸から、何色でもない水滴がぽたぽたと垂れていた。
ああ、そうだね。そうしよう。
僕は遠くの空を見た。
「もうすぐ雨になりそうだ」
そう、呟いて、僕は曇り空へ向かって歩み始めた。
3/6/2023, 1:43:42 PM